2011-03-03から1日間の記事一覧

荷車の歌('59) 山本薩夫 <退路を断った明治女の一代記>

序 プリミティブでシンプルな共感的理解 望月優子と三国連太郎の演技の冴えが絶妙にクロスして、この無名の庶民史の一篇を恐らく不朽の名作にした、「社会派の巨匠」、山本薩夫の最高傑作。 高予算をかけて低級なハリウッド的娯楽映画を作り続ける昨今、日本…

エイリアン1('79) リドリー・スコット <「無秩序な稜線伸ばし」を相対化し切ったSFゴシックホラーの凄味>

内部で生産した工業製品の販売を目的にした民間のスペース・シャトル、それが宇宙貨物船ノストロモ号だった。 ところが、その宇宙貨物船が地球に向かって帰航中に、電算機(マザー・コンピューター)が発信者不明の電波信号を受信したことで、7名の乗組員は…

名画短感⑪  望郷('37) ジュリアン・デュヴィヴィエ監督

本作は、「愛と自由」に関わる人生の選択についての映画である。 難しく言えば、こういうことだ。 自己完結的な「箱庭」で保証される「捕縛からの自由」というローリスクの安寧の中で、「限定的な欲望系のうちに自足する生き方」を捨て切れないか、それとも…

フランス軍中尉の女('81) カレル・ライス  <現実の時間感覚を曖昧にする虚構の世界の推進力>

富豪の娘と婚約した男は、ある日、荒れ狂う防波堤に立つ黒衣の女に注意を呼び掛けるために、埠頭の先端まで走って行くが、女の鋭い視線を浴びただけだった。 しかし男は、黒衣の女の鋭い視線に一瞬にして捉われ、魅了されていく。 「フランス軍中尉」から捨…