2011-03-07から1日間の記事一覧

煙突の見える場所('53)  五所平之助<特定的状況が開いた特定的人格の、特定的切り取り>

1 こうのとりのゆりかご そのストーリーラインを追っていく。 その家は、大雨が降ると浸水する危険性と隣り合わせの古い家屋だった。 主人公の名は、緒方隆吉。日本橋の足袋問屋に勤める中年のサラシーマンである。その妻、弘子は戦災未亡人で、緒方とは再…

人生は、時々晴れ('02) マイク・リー   <空洞化された共同体が復元するとき>

序 空洞化された共同体 ―― その復元の可能性 これは、空洞化された共同体のその復元の可能性についての映画である。 人の心が最も安らぐミニ共同体、今やそれは、私たちが「家族」と呼ぶものが占有するはずの強力な価値空間だった。しかしそこに亀裂が生じ、…

パサジェルカ('63)  アンジェイ・ムンク <「敬服」を手に入れようとする、「権力関係」の構築という戦略の内に>

映像は、その製作の複雑な事情を説明していく。 「ムンク監督は、この作品を未完成のまま、自動車事故で死んだ。61年9月20日、31歳。我々は物語に空白を残したまま、ここに提供する。ムンクの死によって、話の結末も不明である。その結末もあえて求め…

ウィスキー('04)  フアン・パブロ・レベージャ <偽夫婦」の絶対記号が剥がれるとき>

1 オフビート感漂う人間ドラマの挑発的な問題提示 南米で二番目に面積が小さい共和国である、ウルグアイのとある町で、父親から譲り受けた零細工場を経営している男がいる。 かなりの中古車で通勤して来るこの男を待って、一人の中年女性が工場入り口のシャ…