2011-03-09から1日間の記事一覧

妻('53)  成瀬巳喜男 <覚悟を決めた女、覚悟できない男>

1950年代初めのこの国の、とある木造家屋が、朝の外光を浴びた裏通りに融合した絵画のようにして、比較的明るい長調の旋律に乗って映し出されてくる。 今度は、その家屋に住む中年夫婦が、いつでもそうであるような日常の継続性の中で、それぞれの作業に…

東京タワー オカンとボクと、時々、オトン('07)  松岡錠司 <語り過ぎる映画の危うさ ―― 諸刃の剣の自家撞着>

本作ほど、長所と欠点が判然とする映画も珍しい。 長所については一点のみ。 近年の他の邦画がそうであるように、いや恐らくそれ以上に、本作の長所は際立っていた。登場する役者の抜きん出た演技力、これに尽きる。 オカンを演じた樹木希林、オトンを演じた…

告発の行方('88)  ジョナサン・カプラン  <「当事者熱量」と「第三者熱量」が無化されたとき>

自らが被害者となった、酒場におけるレイプ事件を告発した些かヤンキーな女性が、剛腕な女性検事補の助けを借りて、暴行犯・教唆犯の6名を刑務所に送り込むという話で、詳細なプロット説明は省く。 ここでは、映像後半のレイプ裁判に焦点を当てていきたい。…

ジンジャーとフレッド('85) フェデリコ・フェリーニ  <「祭り」の後の「寂寞感」が映し出す人生模様>

1 「この俺を舞台に出してみろ。思い知るぞ。何もかもぶちまけてやる」 如何にも、視聴者参加のテレビ向きのコンテンツが詰まった特別番組があった。 その名は、「トピック・テレビ」。 クリスマスの特別企画である、この「トピック・テレビ」への出演のた…