2011-03-13から1日間の記事一覧

カナリア('04) 塩田明彦 <そこのけ、そこのけ、「子供十字軍」が罷り通る>

子供が、大人または大人社会によって、自分の意思とは無縁な辺りで遺棄されるような苛烈な環境に置かれていて、その子供の現在的なキャパシティを遥かに越える適応を、彼らを囲繞する環境から強いられたとき、その子供が自分を理不尽な状況下に置かれた現実…

女はそれを待っている('58) イングマール・ベルイマン <凛として、新しい人生を切り開く希望に繋がって>

序 無機質のドアの向こうと、此方の空間を明確に仕切る世界の内側で 産科院という、特殊でありながらも、人間の営為の最も根源的な問題を包括する、非日常の限定空間での、「産む」ことの尊厳性と本質に迫る、ベルイマン的な厳しいヒューマニズムの一篇。 そ…

おかあさん('52)  成瀬巳喜男 <喪って、喪って、なお失いゆく時代の家族力>

映像は叙情的な旋律がなお繋がって、そこに家事に勤(いそ)しむ一人の母の日常的な振る舞いを映し出していた。 そこに、明朗闊達な長女のナレーションが追い駆けていく。 「私のお母さんは、よそのお母さんに比べると、少し小っちゃくて、小ぶりなので、長…

フォーン・ブース('02) ジョエル・シューマッカー  <匿名性社会、その闇のテロリズム>

タイムズ・スクウェアを一人の男が、部下を連れて歩いている。 左手に携帯電話を持って、次々に相手を替えて話し込んでいる。男の名はスチュワート・シェパード。通称スチュ。パブリシスト(注1)である。宣伝マンであるスチュは、携帯一つでタレントなどの売…

間違えられた男('56)  アルフレッド・ヒッチコック <非日常の時間の未知のゾーンに拉致されていく心的圧力による不安と恐怖>

「私はアルフレッド・ヒッチコック。今まで多くのサスペンス映画をお送りしてきた。だが、今回は少し違う。異は事実にあり。これは実際にあった物語である。私が今まで作ったどの恐怖の映画より、奇なることがあるのだ」 映画の冒頭でヒッチコックが語るよう…

黒いオルフェ('59) マルセル・カミュ <「死への誘い」という劇薬を内包する奇跡の愛の悲劇的な破綻>

この映画の成功は、ギリシア悲劇という自己完結的な神話的宇宙と、そこに住む人々の熱気がギラギラと照り返す太陽の下で弾ける、カーニバルという自己完結的な祭事が融合することで、一定の芸術表現の高みにまで映像を構築したことにある。 この両者を繋ぐキ…