2011-07-01から1ヶ月間の記事一覧

古刹・古社・名園の春秋

ここで、私が最も印象に残っているビューポイント。 それは、新座市野火止にある、臨済宗妙心寺派の禅寺として著名な平林寺である。 自宅のある西大泉から、上り坂の多いこの古刹まで、30分近くの時間を要して、運動がてら、私は自転車に乗って繰り返し訪…

より抜粋

奥武蔵・秩父の素朴な自然は、私にとって最も馴染み、愛着の深い風景になっている。 以下の写真は、四季折々に足繁く通った集落等で撮ったもので、容易に律動感を保持し得ない、鈍重な歩行による疲労を立ち所に払拭してくれる、それ以外にない頓服薬だった。…

尼僧ヨアンナ('61)  イェジー・カヴァレロヴィチ <「悪魔憑き」の現象という戦略 ―― 封印され得ない欲望系との折り合い>

本作の時代背景は17世紀半ば。 場所は、ポーランドの寒村の尼僧院。 映画を観る限り、この尼僧院には、「マグダレン修道院」のような堅固な「権力関係」が存在したとは思えないし、まして「未来の修道女」に対する陰湿な虐めや暴力が常態化していた訳では…

まぼろし('01) フランソワ・オゾン  <「対象喪失」の深甚な懊悩を糊塗するための、それ以外にない幻想の城砦が崩されたとき>

1 愛する者を喪った悲嘆を癒す「仕事」の艱難さ 「対象喪失」の懊悩を描いた作品は多いが、その代表的作品は、ナンニ・モレッティ監督の「息子の部屋」(2001年製作)であると、私は考えている。 「息子の部屋」では、「グリーフワークのプロセス」につ…

武蔵野春爛漫(その2)

練馬区西大泉に自宅兼用の学習塾の借家を借りていた私は、西武池袋線に乗って都心に出て、そこから、都内各所にあるビューポイント巡りをする選択肢も悪くないと考えていた。 実際、これまで知らなかった多くの花名所を、繰り返し訪れもした。 そこで出会っ…

奥武蔵・秩父の春

練馬区西大泉に自宅兼用の学習塾の借家を借りた関係から、アマチュアカメラマンとしての私の行動エリアは限定的だった。 限定的な行動エリアの中で、私が最も足繁く通ったエリアは、奥武蔵・秩父の集落だった。 「西武秩父行き」の下りの西武線の快速急行を…

リンダリンダリンダ('05) 山下敦弘 <「青春映画の王道」を相対化し切った映像の独壇場>

1 「困難な状況下の、苛酷な努力による『仲間の再生』」という文脈の暑苦しい臭気を蹴飛ばして 観る者に、冒頭から見せるのは、校内の廊下の長回しのシーンによる、学園祭の準備風景。 既に、この作品が、「学校生活」という退屈極まる〈日常性〉の中の、「…

約束の旅路('05) ラデュ・ミヘイレアニュ  <「ファラシャの悲劇」という歴史を借景にした、拠って立つ自我のルーツの物語>

1 「ファラシャの悲劇」という歴史を借景にした、拠って立つ自我のルーツの物語 ―― ① 「彼らは忘れられていた。エチオピア山中、ゴンダールの近く、エチオピアのユダヤ人は“ファラシャ”と呼ばれ、大昔から、聖地エルサレムへの帰還を夢みていた。 1984…

映画史に残したい「名画」あれこれ  外国映画編(その2)

セントラル・ステーション(ヴァルテル・サレス) 本作は、善悪の感覚に鈍磨した中年女性が、父を捜し求める少年との長旅を通して、感覚鈍磨した自我が、本来そこにあったと思わせる辺りにまで、曲接的に心情変容していくプロセスを、精緻で説得力のある映像…

映画史に残したい「名画」あれこれ  外国映画編(その1)

映画のランク付けを好まない私だが、邦画の「ベストワン」を「浮雲」(1955年製作)に決めているように、外国映画でも、紛れもなく、「ベストワン」と思わせる映像がある。 ジェリー・シャッツバーグ監督の「スケアクロウ」(1973年製作)である。 …

ストレンジャー・ザン・パラダイス('84)  ジム・ジャームッシュ  <本当のアメリカ、本当のアメリカ人>

アメリカの空港に、一人の少女が降り立った。エヴァである。 建築現場のような、整備されていない殺伐とした台地から、飛行機の離発着を一頻(ひとしき)り眺めた後、トランクと紙袋を両手に持って、エヴァは静かに歩いて行く。 それが物語らしい物語が展開…

松ヶ根乱射事件('06) 山下敦弘<「アンチ・ハリウッド」の気概すら感じさせる、切れ味鋭い映像の「自己完結点」>

1 「日常性のサイクル」の恒常的な安定の維持の困難さ 刺激情報をもたらす外気との出し入れが少なく、それなりに「自己完結的な閉鎖系の生活ゾーン」では、そこで呼吸を繋ぐ人々の多くは、「日常性のサイクル」を形成しているだろう。 因みに、「日常性」と…

奇跡の海('96) ラース・フォン・ トリアー <「愛の殉教者」=「純粋信仰の実践者」が蒙った、苛酷な「試練」が自己完結したとき>

1 「近代合理主義」と「権威的・排他的形式主義」、そして「非合理的・純粋信仰」のパワー 本作は、「近代合理主義」と「権威的・排他的形式主義」という両極のスタンスに、「非合理的・純粋信仰」のパワーを、巧みな映像表現で描き切った物語である。 「近…

思い出の風景/風景の旅(その2)

ここでは主に、日光霧降高原のヤマツツジやミツバツツジ、妙義山中腹の「さくらの里」に植えられたヤエザクラ(サトザクラ)、長瀞にある岩根神社が所有する、「岩根山つつじ園」のミツバツツジの写真が収められている。 私自身、落葉半低木の朱赤色のヤマツ…

思い出の風景/鎌倉の四季

鎌倉市による古都保存運動の結果、昭和41年に施行された「古都保存法」によって乱開発が規制されたことで、鎌倉では現在にわたって、円覚寺舎利殿という唯一の国宝建築を含めた文化財が多く残っていて、その佇まいは、京都市、奈良市の風格とは違う独特の…

悪人('10) 李相日 <延長された「母殺し」のリアリティに最近接した男の多面性と、「母性」を体現した女の決定的な変容 ―― 構築的映像の最高到達点>

1 無傷で生還し得ない者たちの映画 言わずもがなのことだが、本作は、主要登場人物8人(祐一、光代、祐一の祖母、祐一の母、佳乃、佳乃の父の佳男、佳乃の母、増尾、)のうち、物理的に生還できなかった者(佳乃)を除いて、無傷で生還しなかった者は一人…

グラン・トリノ('08)   クリント・イーストウッド <「贖罪の自己完結」としての「弱者救済のナルシシズム」に酩酊するスーパーマン活劇>

1 「否定的自己像」を鋭角的に刺激する危うさに呑み込まれた、頑迷固陋の「全身アメリカ人」 頑固とは、自己像への過剰な拘泥である。 そのために、自分の行動傾向や価値観が環境に適応しにくい態度形成を常態化させていて、且つ、その態度形成のうちに特段…

ドライビング Miss デイジー('89) ブルース・ベレスフォード <「関係の濃密さ」を構成する要件についての映像的考察>

1 「関係の濃密さ」を構成する要件について そこに微妙な温度差を示しつつも、「関係の濃密さ」を構成する要件について、私は以下の因子を包含するものと考えている。 それぞれを列記すると、「親愛」、「信頼」、「礼節」、「援助」、「依存」、「共有」と…

エグザイル/絆('06) ジョニー ・トー<極道の生きざま漂う「哀感」を表現し切れない脆弱さ>

1 「即興演出」的なアナーキー性の臭気を撒き散らす、「黒社会」での暗闘 「女」と「暴力」の絡みを濃密に描くアメリカン・フィルムノワールと違って、「男の観念」・「力の論理」という「極道の情感体系」に加えて、「友情と背反」を基本テーゼにする香港…