2011-08-01から1ヶ月間の記事一覧

おくりびと(‘08)  滝田洋二郎 <差別の前線での紆余曲折 ―-「家族の復元力」という最高到達点>

雪靄(ゆきもや)の中を、自然の営為に寄り添った走行をする一台の営業車。二人の納棺師が車内にあって、不必要な会話が削られたそのシーンこそ、本作のファーストシーンであった。 その車を運転する若き納棺師のナレーションが、ダークグレーに染まる映像の…

ビヨンド・サイレンス('96) カロリーヌ・リンク <外部世界に架橋する解放感によって相対化した青春の自己運動の眩さ>

1 「音を占有する健常者の世界」の空気を濁色した、「音が剥奪された世界」の屈折的自我 「あの子が私から離れて行ってしまう」と父。 「あなたの親と同じ過ちを犯さないで」と母。 「同じ過ちって?」 「押し付けはダメ。本人の意見を聞いて」 「あの子は…

風景への旅(その4・晩秋を歩く)

晩秋と呼ぶには少し早いが、雪化粧していない富士の優美な山容と、コスモスの多彩な色彩が睦み合って、その絵柄のうちに、「富士にはコスモスが似合う」という言葉が最も相応しいイメージを見せてくれたのである。 河口湖畔の大石に咲く可憐なコスモスが、台…

運命じゃない人('04) 内田けんじ <類稀なるパーソナリティの給温効果を持つ、「全身誠実居士」のラブストーリーという物語の基本骨格>

複数の主体が、それぞれの思惑で交叉した、「全身世俗」の〈状況〉を超絶的技巧で表現した、そんな本作の中で、芯となっている物語の骨格は、それ以外にあり得ない、主人公である「全身誠実居士」の宮田と、彼が偶然に出会った、失恋の痛手で世を儚(はかな…

風景への旅(その3)

ここでは、「つつじ寺」として名高い塩船観音のツツジの大群落。 滝川城址(八王子市)のサクラ。 そして、旧「浅川実験林」こと、現在の多摩森林科学園(八王子市)の、多種にわたるサクラ保存林の壮観な風景が眼を引く。 各種合わせて、約1700本の桜が…

武蔵野・四季の花

ここでは、残念ながら冬季の花の写真はないが、陽春の花であるハナミズキや、私の最も好きな花であるキキョウ(秋の七草の一つ)、夏の代表花のムクゲ(韓国の国花)、朱色の大輪の花を咲かせるモミジアオイ、アメリカフヨウなどが収められています。 [ 思い…

マルホランド・ドライブ('01) デヴィッド・リンチ <ゲーム感覚で「読解」の醍醐味を味わう「知的過程」を相対化する戦略的表現宇宙>

1 局面防衛戦略としての摩訶不思議な「夢」の世界への脱出行 「反復」→「継続」→「馴致」→「安定」という循環を持つ、「日常性のサイクル」の継続力が、ほんの少し劣化し、それを自家発電させていく仕事のうちに気怠さが忍び寄ってくるようなときに、束の間…

風景への旅(花紀行)

ここでは、青梅にある吉野梅郷と、「アジサイ寺」として名高い松戸本土寺が、私の最も愛着の深いビュースポット。 紅梅の多い吉野梅郷は、字義通りの「桃源郷」と言っていい。 最盛期には、殆ど信じ難き美しさを見せるので、毎年のように通ったものである。 …

風景への旅(武蔵野その1)

「天皇、皇后両陛下は26日、紅葉で知られる埼玉県新座市の平林寺を訪問された。秋晴れの空の下、葉が真っ赤に染まったモミジを観賞しながら、境内をゆっくりと約30分間散策」 これは、全国メディアの提携によって設立された、ニュースのポータルサイトで…

奥武蔵・秩父の四季(その2)

ここで印象深いのは、埼玉県秩父郡長瀞町にある、岩根神社のつつじ園。 小高い山に植生されたミツバツツジの大群落に、思わず息を呑むほどである。 但し、この絶好のビュースポットへのアプローチが難儀なのだ。 まず、最寄りの西武鉄道で、終点の西武秩父…

映画史に残したい「名画」あれこれ  外国映画編(その3)

戦場のピアニスト(ロマン・ポランスキー ) この映画の凄いところは、以下の5点のうちに要約できると思う。 その1 観る者にカタルシスを保証する、ハリウッド的な「英雄譚」に流さなかったこと。 その2 人物造形を「善悪二元論」のうちに類型化しなかっ…

アフタースクール('08)  内田けんじ<狭隘なるラベリング思考から抜け切れない男への情感炸裂>

Ⅰ 「予定調和の逆転劇」の効果を高める伏線としての「対立構図」 本作がミステリー・ヒューマンドラマとして観るとき、とても精緻に構築された映画であることは間違いない。 「予定調和の逆転劇」という軟着点を前提化しているように見えるので、ミステリー…

奥武蔵・秩父の春(その2)

奥武蔵・秩父の春は美しい。 この美しさは、一定期間低温に晒され続けた花芽が年を越し、なお耐えて、漸く巡ってきた気温の加速的上昇によって、厳しい冬の季節を突き抜ける「休眠打破」の美しさである。 それは、単に春の到来を告げるシグナルではない。 7…

武蔵野古刹の春

ここでは、「ボケ寺」で名高い専念寺(横浜市)のボケが、私の最も愛着の深いビューポイント。 昭和55年に開園した、このボケ園にはで、1200株のボケが植えられていそうだ。 多彩なボケの花の中で、私を惹きつけて止まないのは朱色・オレンジ系のボケ…

思い出の風景/四季の花々

ここでは、早春のウメ、陽春を告げるコブシの花、初夏に咲くテッセン、シラン、フジ、ボタン、カルミア、 ヤマブキ、ヤマツツジ。 また、初夏に赤紫色の花を咲かせるゼニアオイや、梅雨に咲くタチアオイ、ハナショウブ。 そして、夏の花であるスカシユリ、…

ワン・フルムーン('92) エンダヴ・エムリン <「悲劇の連鎖」が「贖罪の物語」の内に自己完結する映像の凄味>

物語を簡単に要約すると、以下の2行で足りるだろう。 刑務所帰りの一人の男が、少年時代に犯した犯罪、或いは、倫理的に悖(もと)ると信じる行為に対する贖罪の故に、自死に流れていく暗鬱な話である。 その救いのなさに、僅かでも、予定調和のハッピーエ…

川の底からこんにちは('09) 石井裕也 <「深刻さ」を払拭した諦念を心理的推進力にした、「開き直りの達人」の物語>

本作のヒロインである佐和子は、自分は「中の下」であるという「ネガティブな自己像」で固めていた。 高度成長期の根拠の希薄な中流幻想とは異なって、「中の下」であるという、極めてリアルな把握自体、特段に問題ないが、佐和子の場合、そこに自虐的とも思…