2012-03-19から1日間の記事一覧

浮雲('55)  成瀬巳喜男     <投げ入れる女、引き受けない男>

昭和21年初冬。 一人の女が仏印(仏領インドシナ=現在のベトナム)から単身引き揚げて来た。まもなく女は、代々木上原にある男の家を訪ねていく。 焼け跡の東京の風景は、この国の他の都市の多くがそうであったように、あまりに荒涼としていた。 そこだけ…

女の中にいる他人('66)  成瀬巳喜男    <告白という暴力の果て>

1 殺人事件 鎌倉で隣り合う家に住む二人の男、田代勲と杉本隆吉は赤坂で偶然出会った。 仕事の都合で東京に来た建築士の杉本は、東京に勤務する妻のさゆりを訪ねることにした。二人は行きつけのバーに寄って、酒を酌み交わすが、東京の雑誌社に勤める田代は…

めし('51) 成瀬巳喜男  <「覚悟の帰郷」という、相互の自我を相対化させた時間の決定力>

1 観念的に社会的自立を目指した女の、その心理の振幅の激しさ 「あなたは私が毎日、どういう思いで暮らしているか、お考えになった事あります?結婚って、こんなことなの?まるで女中のように、朝から晩までお洗濯とご飯ごしらえであくせくして。たまに外…

乱れ雲('67)   成瀬巳喜男 <禁断の愛の畔にて>

1 絶対拒絶と無限に続く債務感 一人の女が幸福の絶頂の中で、その持ち前の美貌に磨きをかけるような微笑の日々に包まれていた。 彼女の名は由美子。 新妻である由美子の夫は、通産省輸出促進課に勤務するエリート官僚。その出世も際立っていて、米国派遣の…