2012-07-09から1日間の記事一覧

おくりびと(‘08)  滝田洋二郎 <差別の前線での紆余曲折 ―-「家族の復元力」という最高到達点>

1 情感系映像の軟着点 2007年の邦画界の不調を見る限り、邦画人気のバブル現象を指摘する論調があって、「邦画の再立ち上げは容易でなさそうだ」(「asahi com」2008年03月04日)と書かれる始末だった。 ところが、翌2008年の全国…

レナードの朝('90) ペニー・マーシャル <「爆発的奇跡」―― ロマンチシズムへの過剰な傾斜という凡作の極み>

1 隔離施設の中の治療的試み 1969年夏 ブロンクスにあるベインブリッジ病院。 慢性神経病の患者専門の病院である。 臨床医の応募のために、セイヤー医師は当病院の面接を受けて、何とか就職できた。 彼は5年かけて、4トンのミミズから1デジグラムの…

病院で死ぬということ('93)  市川準  <「家族愛」という「究極のロマンティシズム」>

1 激痛や苦悶の喘ぎを拾わない映像への違和感 ここに、この映画のエッセンスを説明する最も重要な言葉がある。 本作の舞台となった病院で、ターミナルケアという究極の医療に関わる山岡医師のモノローグである。 「池田(注)さんが、自宅に帰りたいと言い…

震える舌('80) 野村芳太郎 <叫ぶ娘、走る父、離脱する母――裸形の家族の復元力>

1 室内に絶叫が劈いて―― 発症、そして入院 一匹の美しい蝶が舞っている。 「震える舌」という大きなキャプション(字幕)が、ブルーの映像をバックにその蝶を大きく映し出す。その蝶を採るために、一人の少女が虫採り網で追っている。 しかし、なかなか捕え…