2012-07-18から1日間の記事一覧

それが日暮れの道であっても

ここに一冊の本がある。 今から40年以上前の雑誌だ。「キネマ旬報 第392号 昭和40年6月上旬号」というレア物の雑誌を、私は在住する清瀬市内の図書館を経由して、都立多摩図書館から取り寄せてもらった。そこに、とても興味深い一文が載っているから…

スモールステップの達人

ここに、一人のプロボクサーがいる。(写真) 現時点(2000年3月)で、前東洋太平洋某級のチャンピオンだから、彼は成功したボクサーと言っていい。 彼とは、彼が中学2年生以来の付き合いだから、その間、何年かのブランクがあったにせよ、早いもので…

崩されゆく『打たれ強さ』の免疫力

今井正監督の最高傑作とも思える、「キクとイサム」(1959年製作/写真)の映画評論を書き終わった後、本作の主要なテーマである、「差別」の問題と離れて言及したい由々しきテーマが、私の中で出来(しゅったい)してしまった。映像を通して、キクとい…

定着への揺らぎと憧憬―「寅さん」とは何だったのか

一切の近代的利器とは情感的に切れる生き方を徹底させ、渡し舟に乗り、月夜の晩に故郷を懐かしむリリシズムが全篇に漂う中、その男は純愛を貫くのである。 人々は映像の嘘と知りつつも、この架空のヒーローに深々と思いを込めていき、気がついたら、自分たち…

全身リアリストの悶絶

「“機銃を浴びせて手当てする”―― 欺瞞だ。見れば見るほど、欺瞞に胸がムカついた」 これは、「地獄の黙示録」の主人公、ウィラード大尉が放った言葉。最悪なる戦場に向かう哨戒艇の中で、彼はその否定的な感情を吐き出したのである。 「地獄の黙示録」は欺瞞…

生きること、必ずしも義務にあらず

「海を飛ぶ夢」(アレハンドロ・アメナーバル監督/写真)という映画がある。スペインの実在の人物、ラモン・サンペドロの「安楽死事件」をモデルにした有名な作品である。 本作への評価については、私の「人生論的映画評論」に詳しいので、ここではダイレク…

今日、この日を如何に生きるか

奇跡的傑作との評価も高い「幕末太陽傳」の評論を書き終ったとき、その作り手である川島雄三(写真)の宿痾(しゅくあ)について、私はしばし思いを巡らせていた。 作品の主人公の佐平次がそうであったように、川島雄三もまた、「生きるための薬」と縁が切れ…

終わりなき、姿態の見えない悪ガキたちとの戦争

序 学習塾 見かけは、単に古いだけの木造平屋建ての小さな家屋だった。 しかし、些か塗料が錆び落ちた玄関を開けて、その中に踏み入ってみたら驚いた。天井の白い木枠は相当くすんでいて、そこからぶら下がる豆電球は如何にも頼りない照明光として、小さく揺…

氾濫する『情感系映画』の背景にあるもの ― 邦画ブームの陥穽

成瀬巳喜男の「流れる」についての評論を擱筆(かくひつ)したとき、どうしても言及したいテーマが内側から沸き起こってきた。 「邦画ブーム」と言われる、この国の現在の有りようの社会学的背景について、些か大袈裟だが、年来の思いを記述してみたいと思っ…

優しい文化

一体、この国の人たちは、いつ頃から、このように、「感動」への渇望感を意識し、それを常に埋めようと騒ぎ出すようになったのだろうか。(写真はスローフードのロゴマーク) 思えば、「一児豪華主義」の社会的定着の中で、生まれついたときから、「この眼に…