2012-08-27から1日間の記事一覧

炎のランナー('81)   ヒュー・ハドソン <ユニオンジャックの旗の下に包括しようとする意思が溶融したとき>

1 鋭角的な攻撃性を輻射して止まない男 1924年のパリ・オリンピックの陸上競技で、英国に二つの金メダルをもたらした実話のランナーを描いた、この著名なアカデミー作品賞の中に、本作の基幹のメッセージとも言うべき極めて重要な描写が2か所ある。 本…

黒い雨('89) 今村昌平 <「ピカで結ばれた運命共同体――「戦後」を手に入れられなかった苛酷なる状況性>

どこまでも長閑(のどか)で、穏やかな瀬戸内の海に、小さな島々が浮かんでいる。 そこに、「黒い雨」というタイトルが映し出されていく。 昭和20年8月6日。晴れ上がった朝だった。 トラックの荷台に何人かの女性たちが乗っていて、一軒の屋敷の前で止ま…

七人の侍('54)  <黒澤明の、黒澤明による、黒澤明のための映画>

その村は去年も野伏(のぶ)せり(野武士のこと)たちに襲われて、甚大な損害を受けていた。その村に、今年も彼らは襲って来るに違いなかった。 「待て、待て!去年の秋、米をかっさらったばかりだ。今行っても、何にもあるめぇ」 「ようし!麦が実ったら、…

スケアクロウ('73) ジェリー・シャッツバーグ <逸脱し、無軌道に走った者たちのその後の人生>

1 “逸脱し、無軌道に走った者たちのその後の人生”のハードな現実を描き切った秀作 「スケアクロウ」 ―― 紛う方なく、完璧な映画だった。 この作品こそ、先述した「ごく一部の例外的な秀作」の中の究めつけの一作であった。 それは、ニューシネマの最高到達…