2013-04-01から1ヶ月間の記事一覧

リアリズムの宿(‘03) 山下敦弘 <癖になるほど面白いオフビートコメディの最高傑作>

序 癖になるほど面白いオフビートコメディの最高傑作 何度観ても、笑いを堪えられず、ラストの「小さな救い」では心を打たれ、涙を誘われてしまう80分間の短尺の映画に詰まっているものは、オフビート感満載の滋養ある青春ドラマの訴求力の結晶である。 ひ…

僕達急行 A列車で行こう(‘11) 森田芳光 <好き放題の伏線的なエピソードの暴れ方が壊したコメディの強度>

1 「疑似コミュニティ」の広がりという、「オタク」の閉塞感を突き抜けて開かれたゾーン この映画によって癒される人々がいて、商業的に成功すれば、この上なく悦ばしいことであるだろう。 しかし、映画批評という視座で捕捉した場合、この映画のコメディの…

雨月物語('53) 溝口健二  <本来の場所、本来の姿――「快楽の落差」についての映像的考察>

1 夜の琵琶湖の不吉 「『雨月物語』の奇異幻怪は、現代人の心にふれる時、更に様々の幻想をよび起す。これはそれらの幻想から、新しく生まれた物語です」 これが、映画「雨月物語」の導入となった。 「戦国時代、ある年の早春。近江国琵琶湖の北岸・・・」とい…

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ(‘07) 吉田大八 <男たちの「腑抜けさ」を均等に分け合って喰っていく、誰も勝者のいない女たちの腕力の決定版>

1 「癒しの空間としての家族」という物語と、家族外人間関係における道徳観念が内包する欺瞞性 私たちが殆ど疑うことがない「癒しの空間としての家族」という物語と、とりわけ、この国において、家族外人間関係における道徳観念が内包する欺瞞性を、ブラッ…

奇跡の人('62) アーサー・ペン <様々な現実が交叉し、複層化した様々な条件が、限定空間で集中的に表現されたとき>

1 「躾の悪い山猿」との格闘技の世界が開かれて ヘレンへの「教育」の困難さは、イメージ喚起能力の形成が、ヘレンの幼時的自我を脱却させる唯一の方法論であるにも関わらず、それを容易に持ち得ないことにあった。 「物」には言葉があり、それぞれ意味を表…

ハリーとトント('74) ポール・マザースキー<「関係の達人」としての「英知」溢れる「人生の達人」>

1 「生活知」と「人生知」 「老年期 生き生きしたかかわりあい」(E.H.エリクソン他著、朝長正徳・梨枝子訳 みすず書房刊)によると、「老年期」のステージにおいては、「統合」と「絶望」という二つの内面世界の葛藤があり、その葛藤をバランス良く上手…

愛の嵐(‘73) リリアーナ・カヴァーニ  <男の「加害者性」によって被弾した女の、明瞭な「被害者性」の残酷の極点>

1 地獄を通過して来た者の健全な復元は困難である これは、加害者であれ、被害者であれ、「地獄を通過して来た者の健全な復元は困難である」という問題意識の下、本来、特化された「狂気」の空間で死ぬべきはずだった男と女が、時代が移ろっても、空洞化さ…

4分間のピアニスト('06)  クリス・クラウス <「表現爆発」に至る物語加工の大いなる違和感>

1 簡潔な粗筋の紹介 本稿に入る前に、以下、本作の粗筋を簡潔にまとめておこう。 ピアノ教師として女子刑務所に赴任して来た80歳のクリューガーは、新入りのジェニーが机を鍵盤代わりにして指を動かす姿を見て、一瞬にして抜きん出た才能を認知する。 「…

フル・モンティ('97) ピーター・カッタネオ <日常と非日常の危ういラインで、困難な状況を突き抜けた者たち>

1 肝心の局面で、本気の勝負に打って出た男たちの物語 かつて、淀川長治が産経新聞のコラムで書いたように、「フル・モンティ」とは「すっぽんぽん」を意味するというのが定説である。 また、「20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン株…

アーティスト(‘11) ミシェル・アザナヴィシウス <男の「プライドライン」の戦略的後退を決定づけた、女の援助行為の思いの強さ>

1 今、まさに、防ぎようがない亀裂が入った「プライドライン」の防衛的武装の城砦 特定のフィールドで功なり名遂げた者が、そのフィールドで手に入れた肯定的自己像を放棄することが困難であるのは、その者が拠って立っていたフィールドの総体を否定するこ…

おとなのけんか(‘11) ロマン・ポランスキー <隠し込まれた「当事者熱量」が噴き上げてしまったとき>

1 「一対三」の捩れ方を必至にした「当事者熱量」の意識の落差 子供同士の喧嘩を通して「事故」が発生し、そのことで「加害者」と「被害者」という風に仕分けられたとき、状況の中枢にいる子供たちの「当事者性」が、その子供の親たちに引き渡されるのは社…

真夜中のカーボーイ('69) ジョン・シュレシンジャー <舞い降りて、繋がって、看取った天使、そして看取られた孤独者>

1 男娼として夜の街に立って テキサス生まれのカントリーボーイが、「夢の都・ニューヨーク」に旅立った。 男の名はジョー。 その目的は、男性的魅力に溢れていると信じる自分の肉体を売って、ひと稼ぎしようというもの。 その脳天気な若者のターゲットは、…