2013-05-01から1ヶ月間の記事一覧

かぞくのくに(‘11) ヤン・ヨンヒ <「全体主義という絶対記号」に支配される構造を家族に特化して描き切った映像の凄み>

1 帰還者の期間限定の一時帰国 ―― 物語の前半の簡単な梗概 かつて、「在日朝鮮人の帰還事業」によって、16歳で海を渡った在日コリアンのソンホが、「朝鮮総連」(在日本朝鮮人総聯合会)と思しき北朝鮮系の組織の幹部(東京支部の副支部長)の父の尽力も…

ル・アーヴルの靴みがき(‘11) アキ・カウリスマキ <構成力についての合理的な突っ込みを無化させるほどの独立蜂のパワーの凄み>

1 EU各国が内包するシビアな国際政治のリアリズム ヨーロッパの国境の垣根を緩めたシェンゲン協定や、ユーロの導入、共通農業政策等によって軟着したかに見えた、「ヨーロッパの多様性における統一」という歴史的大実験が、ギリシャの財政破綻の問題に端…

フィールド・オブ・ドリームス('89) フィル・アルデン・ロビンソン<反論の余地のない狡猾さを、美辞麗句で糊塗してしまう始末の悪さ>

1 「神の声」に導かれたボールパーク 「僕の父はジョン・キンセラ。アイルランド名だ。1896年、ノースダコタ州で生まれ、大都会を見たのは、欧州から帰還した1918年。シカゴに住みつき、ホワイトソックス・ファンになった。1919年のワールドシ…

終の信託(‘12)  周防正行 <根源的な問題の全てを、医師たちに丸投げする無責任さを打ち抜く傑作>

序 根源的な問題の全てを、医師たちに丸投げする無責任さを打ち抜く傑作 素晴らしい映像だった。 ラスト45分におけるヒロインの叫びには、震えが走るほどだった。 それは、そこに至るまでの殆ど無駄のない伏線的描写を回収していく、周防監督らしい知的な…

戦場のピアニスト('02)  ロマン・ポランスキー <「防衛的自我」の極限的な展開の様態>

1 5点のうちに要約できる映画の凄さ この映画の凄いところは、以下の5点のうちに要約できると思う。 その1 観る者にカタルシスを保証する、ハリウッド的な「英雄譚」に流さなかったこと。 その2 人物造形を「善悪二元論」のうちに類型化しなかったこと…

第三の男('49) キャロル・リード <「戦勝国」という記号によって相対化された者たちとの、異なる世界の対立の構図>

1 「闇の住人」の視線を相対化する映像構成 時代の大きな変遷下では、秩序が空白になる。 空白になった秩序の中に、それまで目立たなかったような「闇」が不気味な広がりを見せていく。 「闇」は不安定な秩序を食い潰して、いつしか秩序のうちに収斂し切れ…

桐島、部活やめるってよ(‘12) 吉田大八 <「現代の青春」の空気感を鋭く切り取った青春ドラマの大傑作>

1 「現代の青春」の空気感を鋭く切り取った青春ドラマの大傑作 映画を観ていて、涙が止まらなかったのは、いつ以来だろうか。 外国映画なら人間の尊厳を描き切った、ワン・ビン監督の「無言歌」(2010年製作)という生涯忘れ難い作品があるが、邦画にな…

劒岳 点の記('09) 木村大作 <「仲間」=「和」の精神という中枢理念への浄化の映像の力技>

序 「誰かが行かねば、道はできない」 ―― 本作の梗概 「誰かが行かねば、道はできない。日本地図完成のために命を賭けた男たちの記録」 この見事なキャッチコピーで銘打った本作の梗概を、公式サイトから引用してみる。 「日露戦争後の明治39年、陸軍は国…

カッコーの巣の上で('75) ミロス・フォアマン <「分りやすい人物造形」と「分りやすい物語構成」、そして、「分りやすい『権力関係』」の単純な構図>

1 「アナーキーな革命家」を立ち上げていく「アンチのヒーロー」 良かれ悪しかれ、ニューシネマの最終地点辺りに構築された、ジャック・ニコルソン主演の本作は、そこに濃度の差こそあれ、多くのニューシネマに共通する、「破壊されし、アンチのヒーロー」…

暗殺の森(‘70) ベルナルド・ベルトルッチ <「正常」と「異常」という、薄皮の被膜一枚で繋がれた厄介な問題から逃れられない人間の脆弱性>

1 「正常」と「普通」という記号を手に入れんとする男の防衛戦略 スタイリッシュな映像美の鮮度が全く剥落することがないのに驚かされるが、何より特筆すべきは、スタイリッシュな映像が提示した絵柄が、圧倒的な色彩感覚による対比効果や、緻密な光線支配…

マルホランド・ドライブ('01)  デヴィッド・リンチ<ゲーム感覚で「読解」の醍醐味を味わう「知的過程」を相対化する戦略的表現宇宙>

1 局面防衛戦略としての摩訶不思議な「夢」の世界への脱出行 「反復」→「継続」→「馴致」→「安定」という循環を持つ、「日常性のサイクル」の継続力が、ほんの少し劣化し、それを自家発電させていく仕事のうちに気怠さが忍び寄ってくるようなときに、束の間…

やわらかい手('07) サム・ガルバルスキ  <「不健全な文化」を適度に包括する、「健全な社会」の大いなる有りよう>

1 「感動譚」を成就させる推進力として駆動させた文化としての「風俗」 難病と闘う孫を、その孫を愛する祖母が助ける。 「あの子のためなら何でもするわ。後悔なんて少しもよ。家くらい何なの」 冒頭シーンで、既に家を手放した祖母が、息子に吐露した言葉…