2013-09-01から1ヶ月間の記事一覧

世界最古の洞窟壁画 3D 忘れられた夢の記憶(‘10)  ヴェルナー・ヘルツォーク <「全身最適戦略者」のクロマニヨン人の圧倒的な強かさに思いを馳せて>

1 宗教的儀式の色彩を纏った風景が包摂する、洞窟壁画というアートの世界で滾った、時空を越えた文化のリレー 「これらの絵こそ、長い間、忘れられた夢の記憶だ。この鼓動は彼らのか?我々のか?無限の時を経た彼らのビジョンが、我々に理解できるだろうか…

わが母の記(‘11)  原田眞人 <遺棄された、「不完全なるソフトランディング」という括りの潔さ>

1 日本的な「アッパーミドル」に絞り込んだ、「古き良き日本の家族の原風景」を印象づける物語構成 ファーストカットで、いきなり驚かされた小津映画のオマージュ(「浮草」)や、明らかに、そこもまた小津映画の影響を感じさせる、あまりに流暢で、澱みの…

園子温 <行間を埋め潰していく情動過多な構図の連射の騒ぎようと、削り取られてしまったリアリズム>

1 行間を埋め潰していく情動過多な構図の連射の騒ぎようと、削り取られてしまったリアリズム 「そこから逃避困難な厳しくも、辛い現実」 これが、「綺麗事」の反意語に関わる私の定義。 この作り手の映画を貫流していると思われる、物語の基本姿勢である。 …

ベニーズ・ビデオ(‘92) ミヒャエル・ハネケ <「両親が何者であり、父が何をするか」を知っている少年の有罪意識の在りよう>

1 完成形の作品が居並ぶ稀有な映画監督の、優れて構築力の高い映像の凄み ハネケ監督の映画を観た後、必ずと言っていいほど、私は次の映画の批評に入る気分が失せてしまっている。 ハネケケ監督の作品で、映像総体の完成度のハードルが一気に高くなってしま…

ブラック・スワン('10) ダーレン・アロノフスキー <最高芸術の完成形が自死を予約させるアクチュアル・リアリティの凄み>

1 「過干渉」という名の「権力関係」の歪み かつて、バレエダンサーだった一人の女がいる。 ソリストになれず、群舞の一人でしかなかった件の女は、それに起因するストレスが昂じたためなのか、女好きの振付師(?)と肉体関係を持ち、妊娠してしまった。 …

英国王のスピーチ('10) トム・フーパー <「『リーダーの使命感』・『階級を超えた友情』・『善き家族』」という、「倫理的な質の高さ」を無前提に約束する物語の面白さ>

1 吃音症は言語障害である 本作から受けるメッセージを誤読する不安があるので、これだけは理解する必要がある。 それは、現在、多くの国において、吃音症が言語障害として認定されているという点である。 且つ、言語障害として認定されていながら、原因不…

櫻の園(‘90) 中原俊 <「年中行事」を「通過儀礼」に変換させた物語の眩い輝き>

1 「年中行事」を「通過儀礼」に変換させた物語の眩い輝き ―― その1 地方都市にある私立櫻華学園高校演劇部では、創立記念日にチェーホフの「櫻の園」を上演することが、桜咲く陽春の日の伝統的な「年中行事」となっていて、多くの不特定他者の観劇を吸収…

アギーレ/神の怒り(‘72) ヴェルナー・ヘルツォーク <「大狂気」に振れていく男の一種異様な酩酊状態の極限的な様態>

1 エルドラドへの艱難辛苦なアマゾン下りの探検譚 1560年末、ピサロ率いるスペイン遠征隊がペルー高地に到着後、消息を絶つ。 随行した宣教師カルバハルの日記が、僅かにこの記録を伝える。 これが、冒頭のキャプション。 ポポル・ヴーの荘厳なBGMの…

愛を読むひと('08) スティーヴン・ダルドリー <「あなたなら、どうされます?」 ―― 残響音のエネルギーを執拗に消しにくくさせた、観る者への根源的な問い>

1 「絶対経験」の圧倒的な把握力 「どんな経験でも、しないよりはした方が良い」と思われる経験を、私は「相対経験」と呼んでいる。 私たちが経験する多くの経験は、この「相対経験」である。 この「相対経験」は、心に幅を作るトレーニングでもある。 心の…

魚影の群れ(‘83) 相米慎二 <壮絶なる「全身プロフェッショナル」の俳優魂を炸裂させた完璧な結晶点>

1 壮絶なる「全身プロフェッショナル」の俳優魂を炸裂させた完璧な結晶点 微塵の妥協を許さないプロフェッショナルな映画作家の手による、「全身プロフェッショナル」の映画の凄みを改めて感じさせてくれる一級の名画である。 1か月のロケの中で、「演技指…

天然コケッコー('07) 山下敦弘 <「リアル」を仮構した「半身お伽話の映画」>

1 「思春期爆発」に流れない、「思春期氾濫」の「小さな騒ぎ」の物語 島根県の分校を舞台にした、天然キャラのヒロインの、純朴で心優しきキャラクターを、観る者に決定付けた重要なシーンがある。 天然キャラのヒロインの名は、右田そよ(以下、そよ)。 …

源氏物語('51)  吉村公三郎<母性的包容力の内に収斂されていく男の、女性遍歴の軟着点>

1 受難の文学としての「源氏物語」 ―― その解放の雄叫び 日本近代史の中で、「源氏物語」は受難の文学だった。 「庶民感覚から遊離した『有閑階級の文学』」という理由で、プロレタリア文学から批判の矛先を向けられ、「ごく普通の人生を生きる者としての人…