2014-03-01から1ヶ月間の記事一覧

横道世之介(‘12)  沖田修一 <「約束された癒しの快感」に張り付く、「普通に善き人」・世之介の人格像の押し売りの薄気味悪さ>

1 偏見の濃度の薄さ ―― 世之介の人格像の芯にある価値ある何か 「普通に善き人」・世之介の柔和なイメージ全開の青春譚・純愛譚の中で、その世之介の人格像を端的に表現している印象的なシーンを起こしてみる。 まず、私にとって最も印象深いのは、単に人間…

塀の中のジュリアスシーザー(‘12)  タヴィアーニ兄弟 <「虚実皮膜」の手品を駆使してまで送波するタヴィアーニ兄弟の真骨頂>

1 映画の虚構の中で特化された、もう一つの虚構の切れ味 子供を対象にした暴力防止の教育プログラムとして、1980年代に米国で考案・作成された「セカンドステップ」は、日本でも、多くの学校や児童養護施設などで実施され、反社会的行動の減少において…

バベットの晩餐会(‘87) ガブリエル・アクセル <「12人の使徒」に贈る、「最初にして、最後の晩餐」という極上の「お伽噺」>

1 「12人の使徒」に贈る、「最初にして、最後の晩餐」という極上の「お伽噺」 この映画は、粗食を旨とせざるを得ない共同体の内実が、いつしか劣化させていた「信仰」と「共食」の文化の日常性を、唐突に侵入してきた非日常の「美食」の文化が1回的に、…

いつか晴れた日に('95) アン・リー <「ラストシーンのサプライズ」によって壊された映像の均衡感>

1 「ラストシーンのサプライズ」によって壊された映像の均衡感 「ラストシーンのサプライズ」に象徴されるように、観る者の感動をビジネス戦略で包括する、ハリウッド系ムービーの狡猾さがここでも露わになっていて、本作を「名画」と呼ぶには相当気が引け…

名画短感⑤ プレイス・イン・ザ・ハート('84) ロバート・ベント監督

観る者の感動を狙っただけの映画が氾濫する情緒過多なる時代のとば口に、かくも堅実で良質なヒューマンドラマがあったことを確認させられる一篇。 主演を演じたサリー・フィールドと、ジョン・マルコヴィッチの冴えた演技が映像的感性を濃密にしていて、最後…

南極料理人(‘09) 沖田修一 <美食の本質は「不在なる食」との再会の欣喜にあり ―― メッセージコメディの傑作>

1 俳優たちが伸び伸びと演技する人間模様の風景の圧巻 コメディとして完全受容し、観ることができなければ、「アウト」と言われるような典型的な作品。 私は完全受容し、観ることができた。 だから存分に楽しめた。 ただそれだけのこと。 ただそれでけのこ…

男はつらいよ 寅次郎恋歌('71) 山田洋次 <リンドウの花――遠きにありて眺め入る心地良さ>

序 「寅さん映画」の真髄 「寅さん」シリーズ全48作の中で、そのコメディのパワーと映像的完成度のレベルから「最高傑作」を選ぶとしたら、私は躊躇なく一作目の「男はつらいよ」か、5作目の「男はつらいよ 望郷篇」を選ぶであろう。 この二作は、全シリ…

最強のふたり(‘11)  エリック・トレダノ 、オリヴィエ・ナカシュ <階級を突き抜ける友情、その化学反応の突破力>

1 脊損の四肢麻痺に罹患する主人公の内面世界をフォローすることの意味 この映画は、「児戯性」を強調するためのエピソードのくどさに些か辟易したが、映像総体としては、「良い映画」(心に残る映画)であると評価している。 しかし、危さに満ちた映画であ…

マンデラの名もなき看守('07) ビレ・アウグスト <千切れかかっていた「善」が、確信犯の「善」のうちに収斂される物語>

1 千切れかかっていた「善」が、確信犯の「善」のうちに収斂される物語 権力を維持するために行使される、過剰な暴力を是とするシステムに馴染めない「善」と、その権力への自衛的暴力を行使することを指示する確信犯の「善」が物理的に最近接し、そこに心…

インビクタス/負けざる者たち('09) クリント・イーストウッド <「偉大なる黒人大統領」の視線を追い続けることで、間断なく提示していく「主題提起力」の一気の快走>

1 「英雄」という名の未知のゾーンに搦め捕られる心理の鮮度の持つ、「初頭効果」の訴求力 作品が持つ直截な政治的メッセージの濃度の高さを限りなく相対化するためなのか、ほんの少し加工するだけで、もっと面白くなる物語を比較的淡々と構成化することで…