2014-05-01から1ヶ月間の記事一覧

汚れなき悪戯(‘55)  ラディスラオ・ヴァホダ <理念系の濃度の高い作品に昇華させた一級の「宗教的ファンタジー」>

1 “パンとぶどう酒のマルセリーノ” 自我のルーツを切実に求める純朴な幼児・マルセリーノの思いを、その幼児から無償の援助行動を受ける「神の子・イエス」が柔和に吸収し、世俗と天上を融合させ、絶対安寧の世界に送り届けることで、限りなく、理念系の濃…

フライト(‘12) ロバート・ゼメキス <膨れ上がった心の振れ幅を持つ男の心の闇>

1 膨れ上がった心の振れ幅を持つ男の心の闇 ―― その1 人間を支配し、突き動かしているものが、価値観・思想という観念系のものであると言うよりも、寧ろ、感情・情動であることを、振れ幅の大きい一人の男の人物造形を通して描き切った秀作。 人間は複雑で…

現代最高の映像作家 ― ミヒャエル・ハネケ監督の世界

1 人間洞察力の凄みを見せるハネケ映画の真骨頂 一人の女がいる。 女の名はアンヌ。 多忙を極める女優である。 女優業で多忙を極めているアンヌが、アラブ系の二人の移民の若者に絡まれる恐怖体験についてのシーンがある。 車両の一番端に座っているアンヌ…

聯合艦隊司令長官 山本五十六-太平洋戦争70年目の真実- (‘11) 成島出<「メデイアの加害者性」を衝く反戦映画>

1 「メデイアの加害者性」を剔抉した、「基本・反戦映画」の鮮度の高さ この映画は、たとえ通州事件(1937年7月)があったにせよ、侵略戦争としての日中戦争ではなく、帝国主義間戦争(市場再分割戦争)としての太平洋戦争に焦点を当て、その戦争に対…

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド(‘07)  ポール・トーマス・アンダーソン<「絶対個人主義」というルールで駆け抜けた孤高の男の、その収束点の陰翳感>

1 剥き出しの大地にへばり付き、穿っていく男の強烈なる個我の裸形の風景 風荒(すさ)ぶ荒野の一角で、一人の男が鶴嘴(つるはし)を振るっている。 夜になり、男は野営する。 その直後の映像は、小さな暗い穴の立坑で、右手に槌(つち)、左手に鑿(のみ…

仁義なき戦い(‘73) 深作欣二<「任侠ヤクザ」から「組織暴力」へのイメージ変換を決定的に成就させた映画>

1 「任侠ヤクザ」から「組織暴力」へのイメージ変換を決定的に成就させた映画 「弱気を助け、強きを挫く」というイメージを堅気の大衆にセールスする一方で、その内部で、疑似家族的な共同体のピラミッド型の階層構造を仮構し、「親分・子分」という関係で…