2014-08-01から1ヶ月間の記事一覧

知りすぎていた男(‘56) アルフレッド・ヒッチコック <「失った家族の復元」を成就させた「善きアメリカ人夫婦」の物語>

1 政治絡みの陰謀にインボルブされた、「平凡なアメリカ人家族の生活」 「このシンバルの一打が、平凡なアメリカ人家族の生活を揺すぶった」 オーケストラの演奏が流れるオープニングシーンのキャプションである。 カサブランカ発マラケシュ行きのバスの中…

真実の行方(‘96) グレゴリー・ホブリット <決定的頓挫の敗北感を引き摺って、裏口から逃げ去る男の物語>

1 「敏腕弁護士」が搦め捕られた事件の闇 冬のシカゴで、その事件は起きた。 カトリック教会の枢要な聖職である大司教・ラシュマンが、自宅で惨殺されたのである。 まもなく、事件の容疑者は逮捕された。 その名は、アーロン・スタンプラー。 19歳のアー…

百万円と苦虫女(‘08)  タナダユキ <防衛的でありながらも、ラベリングと闘う「移動を繋ぐ旅」の物語>

1 「これからは、一人で、自分の足で生きていきます」 「青春の一人旅」には、様々な「形」があるが、少なくとも、「自己を内視する知的過程」に関わる旅の本質を、「移動を繋ぐ非日常」による「定着からの戦略的離脱」であると、私は把握している。 そして…

「人生を無駄にした罪」によって裁かれる男の物語

1 「半径2メートルの世界」 ―― 〈私の状況〉であり、〈私の時間〉の囲み方 森内俊雄の「氷河が来るまでに」(河出書房新社刊)。 かつて私は、この小説を二度読んだ。 現代文学の中で、私は、底知れぬほど苦脳する男の心の風景を描いたこの小説を、最も愛…

めまい(‘58) アルフレッド・ヒッチコック <「サプライズ」に振れずに、「サスペンス」を選択した構成力の成就>

1 恐怖のルーツを突き抜けた反転的憎悪が、倒錯的に歪んだ愛の呪縛を解き放つ男の物語 これは、反転的憎悪が恐怖のルーツを突き抜けた瞬間に、倒錯的に歪んだ愛の呪縛から解き放たれていく男の物語である。 同時にそれは、消せない愛の残り火を駆動させた挙…