2015-03-01から1ヶ月間の記事一覧

僕たちの家族(‘13) 石井裕也<強化された情緒的結合力という、取って置きの「武器」の底力を発揮した家族の生命線>

「舟を編む」(2013年製作)に次ぐ石井裕也監督の本篇は、現代家族の問題に真っ向勝負した、シリアス系の切れ味鋭い傑作に仕上がっていて、絶賛したい。 本篇でも、全く無駄な描写がないからテンポも良く、いつものように感傷を引き摺らず、観ていて感嘆…

そこのみにて光輝く(‘13) 呉美保<「人生」の「どん底」のゾーンで動けない女の中枢を、男のストロークが移動させていく縁(よすが)の物語>

1 「どん底」の生活に縛られ続けている女と、心的外傷を負った男の曲線的交錯 突き詰めて選(え)りすぐった、カットの集積が構築した映像のパワーの凄み。 プロの俳優の圧巻の演技力が、殆ど完璧に、水底に接するぎりぎりの底層に呼吸を繋ぐ女と、その女へ…

ブルージャスミン(‘13) ウディ・アレン<「人生脚本」を書き換えられない女の予約された着地点>

1 「知りたくないと思ったら、見ぬ振りする」女の厄介な感情ライン これは、殆ど心理学の世界である。 それも、ほぼ完璧な構築力で、シビアなドラマを描き切った心理学の世界である。 だから、心理学的アプローチなしに書き逃げできない評論となった。 それ…

東京公園(‘11) 青山真治<「虚像」を抜け、内的交流に辿り着く青春の呼吸音>

1 「非在」の形象的人物と同居しつつ、公園散策の美女を撮る若者の変動の振れ幅 黄葉が目に眩しい代々木公園で、「家族写真」を撮っている若者がいる。 カメラマン志望の大学生の光司である。 その光司のファインダーに、今、ベビーカーを引いている一人の…

ハンナ・アーレント(‘12)  マルガレーテ・フォン・トロッタ<「法」(正義)と「モラル」(道徳的感情)を峻別し、真実に向き合う一人の女性の、その凜とした生き方>

1 「私たちは“思考”をこう考えます。自分自身との静かな対話だと」 「抑留キャンプから逃げた時、褒めてくれたわね。多くはキャンプで夫を待ち続けて、逃げそびれた。すぐに助かるって、希望を持ってたわ。だけど待ちくたびれて、女たちは無頓着になり、体…