2015-07-01から1ヶ月間の記事一覧

蝉しぐれ(‘05) 黒土三男 <「古き良き日本」の純愛譚の眩さ>

1 ひしと伝わってくる繊細な人間の感情を描く描写の繋がり 「古き良き日本」の純愛譚を貫く者の眩さ。 この時代に、このような人物もいて、そうでない人物もいた。 この映画は、前者を特化して描いた作品である。 そこに、私は特段の違和感を覚えない。 ベ…

蠢動 -しゅんどう-(‘13) 三上康雄 <「人間道」によって削がれる「武士道」の脆弱さ ―― 本格派時代劇の醍醐味>

1 絶望的な叫びに変換され、理不尽な世界に堕ちていった男の無念さ 享保(きょうほう)20年。 山陰・因幡藩(モデルは鳥取藩)でのこと。 「三年前の飢饉から、ようやく立ち直った矢先に、御公儀の無理難題。更に此度(このたび)のことを・・・頭の痛いこと…

バートン・フィンク(‘91) コーエン兄弟 <煩悶する映画作家 ―― 妄想的に仮構した世界の達成的焼失点>

1 「底なしの沼に飛び込み、自分の魂の奥から、何かをさらい出す。魂を探る旅は苦痛を伴う旅だ」 コーエン兄弟の個性的な作品群の中から最高傑作を選ぶとするなら、私は躊躇なく、この「バートンフィンク」という稀有な逸品を選ぶだろう。 繰り返し観ても、…

フルートベール駅で(‘13)  ライアン・クーグラー  <「犯罪の臭気」を漂動させている「少なくない黒人」への「権力的構え」の暴走>

1 「ムショは、もういやだ。あの服役で懲りた」 とかく暴走しやすい主題を、一人の黒人の生活風景のうちにシンプルに特化した構成力によって均衡を保持した、インディーズムービーの傑作。 ―― 以下、梗概。 フルートベール駅。 2009年元旦に、その事件…