2016-01-01から1ヶ月間の記事一覧

コーヒーをめぐる冒険(‘12)  ヤン・オーレ・ゲルスター<依存的なモラトリアムが壊れ、魂の呻きを吐き出す「現在性」が動き出していく>

1 「周りが変に思えて、違和感があるんだ。だけど分ってきた。問題なのは他人じゃなくて、自分なんだと・・・」 「コーヒー、いれようか?」 「遅刻しそうなんだ」 「今夜の予定は?」 「今夜は無理だ」 「何で?」 「忙しいんだ」 「何があるの?」 恋人の質…

こわれゆく女(‘74) ジョン・カサヴェテス<「囚われ感」の強度が増すたびに、限りなく演技性を帯びていく女の二重拘束状況>

1 退行的に「白鳥の湖」を踊る女と、感情コントロールの限界の際(きわ)で妻を愛する男の物語 インディーズ・ムービーの一つの到達点を示す、殆ど満点の映画。 意思疎通が上手くいかない夫婦の思いが沁みるように伝わってきて、言葉を失うほど感動した。 …

ガタカ(‘97)  アンドリュー・ニコル<「不適正者・神の子」という人間 ―― その精神世界の目映い輝き>

1 弛(たゆ)まぬ努力なくして成就し得ない、苛酷な日々を繋ぐ若者の物語 「神が曲げたものを誰が直しえよう」(「伝道の書」) 「自然は人間の挑戦を望んでいる」(ウィラード・ゲイリン/米国の精神分析医) この冒頭のキャプションから開かれる映像は、…

ローマ環状線、めぐりゆく人生たち(‘13)  ジャンフランコ・ロージ <光と色彩のシャワーによる摩訶不思議な世界の昼夜の光景の変容>

1 固有の人生を人知れず繋ぐ人々の時間の断片を切り取る映像空間 「GRA環状高速道路はイタリアで最長を誇り、土星の輪のようにローマを取り囲んでいる」 冒頭のキャプションである。 サイレンを鳴らして走る救急車が患者を搬送するシーンから開かれるG…