2016-04-01から1ヶ月間の記事一覧

きみはいい子(‘14) 呉美保 <揚げパンを届けるために疾走する新米教師、或いは、トイレに隠れ込む母が負う荷が降ろされるとき>

「酒井家のしあわせ」、「オカンの嫁入り」、「そこのみにて光輝く」、そして本作の「きみはいい子」と4作観てきたが、全て一級品である。 いつもながら、呉美保監督の抜きん出た演出力は、ここでも圧巻だった。 高良健吾、尾野真千子。共に素晴らしい。 特…

海にかかる霧(‘14) シム・ソンボ <悲劇の円環性 ――  その救いようのない海洋密室劇>

1 日の出と共にに沈降していった、海霧の中で炙り出される男たちの「野生合理性」 麗水(ヨス・全羅南道東南部の沿海部に位置する)で漁業を営むカン船長が、中国からの朝鮮族の密航(中国から韓国に運ぶ違法行為)を引き受けたのは、近年の深刻な漁業不振…

大統領の執事の涙(‘13) リー・ダニエルズ<「黒人の家畜化」を拒絶する父と子 ―― その復元の物語>

1 同胞たちとの距離を感じつつも、威厳ある振る舞いによって人種間の壁を崩す戦士 【本作は公民権運動を背景に描いているので、公民権運動の流れについては3で後述します】 “闇は、闇を追い払えない。 闇を払うのは光だけ” 冒頭から、「ストレンジフルーツ…

フォックスキャッチャー(‘14) ベネット・ミラー <「自己愛性パーソナリティ障害」 ―― その屈折的自我の心の闇の痛ましき風景>

1 「国を羽ばたかせたい」という尖り切った熱情の破滅的帰結点 「カポーティ」(2005年製作)で度肝を抜かれ、「マネーボール」(2011年製作)で感動させられ、そして、この「フォックスキャッチャー」(2011年製作)では、完璧すぎて絶句させ…