2016-05-01から1ヶ月間の記事一覧

リアリティのダンス(‘13) アレハンドロ・ホドロフスキー <「家族のスターリン」を延長できなかった男から解放され、「ただ、風だけが通り過ぎる」記憶を再構成する映画作家の物語>

1 「未来の君は、すでに君自身だ。苦しみに感謝しなさい。そのおかげで、いつか私になる。幻想に身を委ねなさい。生きるのだ」 「お金は血なり、循環すれば活力になる。お金はキリストであり、分かち合えば祝福される。お金はブッダであり、働かなければ得…

その男、凶暴につき(‘89) 北野武 <「野生合理性」という感情システムを内蔵する男の「約束された収束点」>

1 血染めの赤に塗り潰された、重くて、救いようのない瞑闇の風景の中で 既成の映画文法の押し付けを拒絶し、好き放題に撮った映画の面白さ。 それが、この映画に凝縮されている。 北野作品群の中で、「娯楽」と割り切って作ったこの映画が、私は一番好きだ…

サイダーハウスルール(’99) ラッセ・ハルストレム <「人生の重み」 ―― 「戦略的離脱」に打って出た青春が手に入れた至高の価値>

1 「こんな充実感は初めてです。僕は残ります。役に立ってると思うから。ここで学ぶのは、どんな小さなことも、僕には新鮮です」 「よそでは、若者は家を出ると、自分の未来を探して、広く遠く旅をする。その旅のエネルギーは、悪を倒すという夢や、めくる…

トレーニングデイ(‘01) アントワーン・フークア <「公正」の観念によって葬られる、「上下関係で固められた、構造化された秩序」>

1 疑心暗鬼で揺れる若き捜査官の良心を甚振り、利用する男の容赦なき狡猾さ 「俺、刑事になりたいんです」 自ら志願し、ロス市警の刑事部・麻薬取締課に配属された、妻子持ちのジェイクの言葉である。 彼の相棒となったのは、ベテラン刑事のアロンゾだった…

サンドラの週末(‘14) ダルデンヌ兄弟<疾病再発の危うさをブレイクスルーした女の、それ以外にない着地点>

1 人生の新たな局面に向かって、自己運動を繋いでいくまでのシビアな物語 社会観・世界観が違っていても、ダルデンヌ兄弟の映画は大好きだ。 決してプロパガンダに堕さず、秀逸なヒューマンドラマに仕上がっているからである。 グリーフという現代的テーマ…