2016-09-01から1ヶ月間の記事一覧

山椒大夫(’54) 溝口健二<映像化された「語りもの」の逸品が、奇跡的な「復讐・再会譚」として炸裂する>

1 人買いに売られた貴族の悲哀 「人は慈悲の心を失っては、人ではないぞ。己を責めても、人には情けをかけ、人は均しくこの世に生まれて来たものだ。幸せに隔てがあっていいものではない」 父・平正氏(たいらのまさうじ)は息子の厨子王に、「父の心は、こ…

エデンより彼方に(’02) トッド・ヘインズ <光を失ったフィフティーズの薄暮の陰翳が、二つの「違う世界」への架橋を閉ざす>

1 「差別戦線」に呑み込まれ、翻弄されたヒロインが苦悩する基本・メロドラマ アメリカ東海岸、ニューイングランド北東部の6州の1つ・コネチカット州の中央部に位置するハートフォードは、「トムソーヤーの冒険」、「ハックルベリーフィンの冒険」を執筆…

祇園囃子(’53) 溝口健二 <「弱さの中の強さ」が際立つ女たちの応力の強さ>

1 〈状況〉を突き抜け、 ジェネレーションギャップの狭隘なスキームを超え、リセットされた芸妓と舞妓の物語 秀作揃いの溝口健二監督の作品の中で、私は「近松物語」と並んで、本作の「祇園囃子」が一番好きだ。 小品ながら、クローズアップ(大写し)を排…

サイの季節(’12)  バフマン・ゴバディ<「生者」は「死者」となり、「死者」と化していた「生者」は移ろい過ぎ去ることなく、「永遠の詩人」として蘇る>

1 女を求め続けた男の寄る辺なき孤独な魂が、女の幸福を願いつつ、荒野の中枢を彷徨する 「本作は、イランで27年投獄された詩人、S・キャマンガールの実話に基づく。偽りの訃報と墓を前に、家族は悲嘆に暮れた。詩の朗読はクルド人女性による」 冒頭のキ…