2020-08-01から1ヶ月間の記事一覧

「俗悪なリアリズム」という、イラン映画の絶対的禁忌 ―― 映画「人生タクシー」の根源的問題提起 ジャファル・パナヒ

1 「乗合いタクシー」に乗り込む人々の多様な人生模様 イランの首都テヘラン。 黄色いタクシーを運転するのは、映画監督ジャハル・パナヒ。 そのタクシーのダッシュボードにはカメラが設置されていて、それがイランの街や通行人を映し出していく。 一人の男…

ひとよ('19)   白石和彌

<「自由の使い方」に困惑し、自尊感情の形成・強化の時間を奪われた、三兄妹の再生の可能性> 1 家族4人が久々に揃った朝餉の風景は、団欒と呼ぶには程遠かった 「皆聞いて。お母さん、話があるから…お母さん、さっき、お父さんを殺しました。車で刎ねて…

「臭気」という、階層の絶対的境界の不文律 ―― 映画「パラサイト 半地下の家族」('19)の風景の歪み  ポン・ジュノ

1 「半地下」の貧しい一家が、「高台」に住む富裕なパク家に入り込んでいく 北朝鮮による度重なるテロ攻勢によって、事態の悪化を防ぐ一つの手段として、韓国政府が構築した防空壕(避難場所)=地下室(半地下=半分地下に埋まった部屋)。 ここに住む貧し…

ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書('17)   スティーヴン・スピルバーグ

<「古い時代は終わるべきだ。権力を見張らなくてはならない。我々がその任を負わなければ、誰がやる?」> 1 「これが本物なら、我々も“試合復帰”だ」 1966年、ベトナム戦争の真只中で、「大使館の関係者で、戦況を調べている」(米軍兵士の言葉)ダニ…