2021-04-01から1ヶ月間の記事一覧

その手に触れるまで('19)   ダルデンヌ兄弟

<内実の乏しい観念系で武装した少年が、その曲線的展開の中で決定的に頓挫する> 1 「僕は大人だ。大人のムスリムは女性に触れない」 「さよならの握手は?」 「さよなら」 「私と握手するなと、導師(イマーム)に言われた?」 「僕は大人だ。大人のムス…

「コスモポリタン」を無化した女の情愛が、地の果てまで追い駆けていく 映画「スパイの妻」('20)の表現力の凄み  黒沢清

1 「私が怖いのは、あなたと離れることです。私の望みは、ただ、あなたといることなんです」 一九四〇年 神戸生糸検査所 英国人のドラモンドが、軍機法(軍機保護法)違反で憲兵たちに連行された。 貿易会社を経営する優作の元に、取引先の友人でもあるドラ…

自己運動の底部を崩さず、迷い、煩悶し、考え抜いて掴んでいく ―― 映画「星の子」('20)の秀逸さ 大森立嗣

1 「分かってる。私は大丈夫だよ。誰にも迷惑かけないし、お金も何とか自分でできると思う」 林夫妻の間に虚弱児として産まれた、ちひろ。 「未熟児だって。ただただ健康に」(2005年2月13日) 「体温37.1度 脈拍121回 湿疹が手足顔に」 乳児…

ある少年の告白('18)   ジョエル・エドガートン

<同性愛の矯正治療の無意味さを弾劾し、克服していく> 1 「妄想が罪なら、神に赦しを求める」 「何も起きなければよかった。でも、起きたことを神に感謝する」 主人公・ジャレットのモノローグである。 「全員で、“光を輝かせろ”。ここに集う完璧でない方…

生きちゃった('20)  石井裕也

<友愛の結晶点を描き切って閉じていく> 1 「私の夢は、庭付きの家を建てることです。妻と娘のために。それと、犬も欲しい」 高校時代の友人、武田と奈津美(なつみ/登場人物名は全て公式ホームから)と3人で過ごした厚久(あつひさ)の回想シーンから、…