2021-07-01から1ヶ月間の記事一覧

体育会系の懐深くに飛び込み、仇を討つ、醇乎たる男の物語 映画「宮本から君へ」('19)の峻烈さ 真利子哲也

1 出口の見えない時間の只中で、激しく葛藤する男と女 時系列を前後させながら構成された物語は、主人公・宮本浩(以下、宮本)が、中野靖子(以下、靖子)を連れて実家に戻り、唐突に父親に宣言するところから「現在パート」が開かれる。 「僕、この人と結…

母さんがどんなに僕を嫌いでも('18)   御法川修

<「トラウマ」を克服し、「愛情」を得て、「尊厳」を奪回していく> 1 「僕にした仕打ちを母さんに後悔させるまで、絶対に死なないから!」 「小学生の頃、僕と姉は、こっそり母の姿を観察するのが好きでした。いつも母は奇麗で、いい匂いがして、そして、…

人生論的映画評論・続  状況に馴致することによってしか呼吸を繋げなかった女の悲哀 映画「愚行録」('17) ―― その異形の情景 石川慶

1 女を弄び、腹を抱えて笑う二人の男 我が子(千尋=ちひろ)をネグレクトした罪で、警察に拘留されている妹・光子に、弁護士を随伴して面会する兄・田中武志(以下、武志)。 「あの子、元々食が細いんだよ。普通の家庭がどうしているか、分かんないけどさ…

恐怖のスポットでグリーフワークが完結する 映画「蜜蜂と遠雷」('19) ―― その眩い煌めき 石川慶

1 「落ちちゃったよ。生活者の音楽は、敗北しました」 第10回 芳ヶ江 国際ピアノコンクール 第一次予選 11月9日~13日 「2週間にわたる3つの予選を経て、6名が本選へ進みます。今年は過去最多の53か国1地域から、512名の応募がありました。こ…

晩年の2年間に爆裂する男の「激情的習得欲求」の軌跡 映画「永遠の門 ゴッホの見た未来」('18)   ジュリアン・シュナーベル

1 「僕の中に何かがいる。誰にも見えないものが見えて、恐ろしい」 「芸術家のグループ展」に出品されたフィンセント・ファン・ゴッホ(以降、ゴッホ)の絵は評価されず、すべて撤去されてしまう。 「こんな絵は誰も見ない。一人でも客を増やしたいのに、こ…