#映画祭

ハンナ・アーレント(‘12)  マルガレーテ・フォン・トロッタ<「法」(正義)と「モラル」(道徳的感情)を峻別し、真実に向き合う一人の女性の、その凜とした生き方>

1 「私たちは“思考”をこう考えます。自分自身との静かな対話だと」 「抑留キャンプから逃げた時、褒めてくれたわね。多くはキャンプで夫を待ち続けて、逃げそびれた。すぐに助かるって、希望を持ってたわ。だけど待ちくたびれて、女たちは無頓着になり、体…

仁義なき戦い(‘73) 深作欣二<「任侠ヤクザ」から「組織暴力」へのイメージ変換を決定的に成就させた映画>

1 「任侠ヤクザ」から「組織暴力」へのイメージ変換を決定的に成就させた映画 「弱気を助け、強きを挫く」というイメージを堅気の大衆にセールスする一方で、その内部で、疑似家族的な共同体のピラミッド型の階層構造を仮構し、「親分・子分」という関係で…

ミッドナイト・イン・パリ(‘11)  ウディ・アレン <「パリ万歳」というチープな感覚を超えて、タイムトリップのゲームをファンタスティックに描いた傑作>

1 価値観の違いを顕在化させる、世俗的な現実主義と懐古主義の乖離感 次々と、美しく切り取られたパリの情景が、3分間に及んで映し出された後、ライトアップされた夜のエッフェル塔の絵柄に結ばれて、オープニング・クレジットが表示されていく。 それと同…

青春の殺人者('76) 長谷川和彦 <過剰把握された青春の自立の脆弱性、或いは、自己を相対化し得た若者の心の軌跡>

1 「解放的自我」とは無縁な若者の破壊の内実 このような環境下で、このような育てられ方をすれば、このような若者が生まれ、且つ、その若者が、このような状況下に置かれれば、このような犯罪を犯すかも知れないという説得力において、本作を凌駕する作品…

ミリオンダラー・ベイビー('04) クリント・イーストウッド  <孤独な魂と魂が、その奥深い辺りで求め合う自我の睦みの映画>

安楽死を求めるマギーの気持ちが充分に理解できていても、それを遂行することに躊躇するフランキーは、思い余って、馴染みの神父に相談した。 これまでにない真剣なフランキーの相談に対して、神父の反応はカトリックの倫理観を代弁するもの以外ではなかった…