1 「わしは死ぬまでその、一日でも良い、そんなふうに生きて…死にたい」 「これは、この物語の主人公の胃袋である。噴門部に胃癌の兆候が見られるが、本人は未だそれを知らない」(ナレーション) その主人公とは、某市役所の市民課長を務める渡辺勘治(以…
1 「あなた、秘密があるのね。それを私にください。それが欲しいんです。私、それがとても良いものに違いないと思うから」 「満州事変をキッカケとして、軍閥・財閥・官僚は帝国主義的侵略の野望を強行するために、国内の思想統一を目論見、彼等の侵略主義…
1 「体が動かない。動けぬまま、僕は旅の手記を書く。孤独の彼方に、漂流する者の目で」 脳梗塞によって、ロックトイン症候群(閉じ込め症候群)になり、眼球運動以外のコミュケーション機能を失った一人の男・ジャン=ドーが、事故から3週間後に覚醒した…
1 「“死んだ者を哀しんで、なにが悪い!人間としての権利だ!”」 1945年 満州 ハルビン 妹の結婚式で、美味しそうに料理を食べる山本幡男(はたお/以下、幡男)と妻モジミと4人の子供たち。 「素晴らしい結婚式だ」と幡男。 「ええ」とモジミ。 その…
1 「お前さんが死んであの世へ行くと、阿弥陀様にお目にかかる。阿弥陀様は、お前さんをお慈悲深い目で見守って…だから、くよくよせずにお迎え待つんだよ」 崖の下のオンボロの棟割長屋(むねわりながや)には、どん底の人生を送る人間たちが住んでいる。 …
NHK「クローズアップ現代」で放送された「戦争が“言葉”を変えていく ある詩人が見たウクライナ」を観て深い感慨を覚えたので、その一部を紹介したい。 以下、ウクライナ西部の都市リビウの人形劇場の演出家として働くウリャーナ・モロズさんが、侵攻後、…
1 「いつも、先生とおしゃべりできるのが嬉しかった。おばあちゃんの長話に付き合ってくれて。本当にありがとうございました」 音楽番組に続いて、ラジオからニュースが流れる。 「75歳以上の高齢者に、死を選ぶ権利を認め、支援する制度、通称“プラン7…
1 「殿の行く道はただ二つ。じっとこのまま大殿に斬られのを待つか、大殿を殺して蜘蛛巣城の主になるか」 蜘蛛巣城の城主・都築国春(つずきくにはる/以下、国春)の臣下、北の館(きたのたち)の藤巻が、隣国の乾(いぬい)と通じて謀反を起こし、当初、…
1 「死ぬのはやむを得ん。だが、殺されるのは嫌だ!」 家庭裁判所の調停委員をしている歯科医の原田が家裁に着くと、家族によって裁判所に申し立てられた中島喜一(以下、喜一)が、荒木判事に向かって怒りをぶつけていた。 「この連中が一人前の人間に見え…
1 「あたしはハナ」「ハナ?」「そう。咲いた咲いたのハナ。簡単な名前だわ」 現代。 静岡県警察本部刑事部嘱託の田島松之丞(以下、田島)が、刑事捜査資料の印刷の依頼で、県内にある港印刷所を訪ね、事務員に名詞と原本を置いて行った。 病院でレントゲ…
1 「用心棒にも色々ある。雇った方で用心しなきゃならねぇ用心棒だってあらぁ」 風来坊の素浪人・三十郎がやって来た宿場町には、賭場の元締めの清兵衛一家と、跡目相続への不満で独立した清兵衛の弟分の丑寅一家との争いが絶えず、すっかり荒廃していた。 …
1 「戦争が終わってもう45年も経つとに、ピカはまだ戦争ば止めとらん。まだ人殺しば続けよる。ばってん、みんな戦争のせいたい」 「なんだか、おかしな夏でした。その夏休みには、奇妙な出来事ばかり起こりました」(たみのモノローグ) 長崎の山村に住む…
1 「ここに住まないか?毎日、うまいもの喰えるぞ」「ありがとう。ちょっと考えさせて」 信州の山奥で畑作の自給自足の生活をする作家・ツトムの元に、担当編集者の真知子が車を走らせ向かっている。 〈立春〉一年のはじまり(2月3日、2月4日頃) ツト…
1 「僕は原爆の恐ろしさと、あの非人道的なことを世界の人に叫ぶ前に、まず日本人に分かってもらいたいんです」 「1945年8月6日朝、2時45分3機のB29は、テニアンの基地を出発した。指揮官ティベック(ティベッツ)大佐搭乗のエノラ・ゲイ号の爆…
1 「…私は一体、誰の人生と一緒に生きていたんでしょうね」 宮崎の実家の誠文堂文具店で店番をしている武本里枝(りえ/以下、里枝)が、ペンの色を揃えながら、抑え切れず涙を流す。 そんな時、大雨の中、スケッチブックを買いに来た男が店の停電の際にブ…
1 「ママは7年間監禁されてるの…“世界”は広いのよ。信じられないくらい広い。“へや”は狭くて臭い」 「昔々、僕が下りてくる前、ママは毎日泣いて、TVばかりを見てゾンビになった。そして天国の僕が天窓から下りてきた。ママを中からドカンドカン蹴ったん…
1 「俺は命懸けでアカを捕まえた。俺がいなきゃ、この国は北に侵略されてた」 “大韓ニュース 大統領の動静” 「チョン・ドゥファン大統領は、北朝鮮スパイの検挙者を労(ねぎら)いました。また“急激に左傾化した一部の分子が反体制は勢力とつながることで、…
1 「俺は命懸けでアカを捕まえた。俺がいなきゃ、この国は北に侵略されてた」 “大韓ニュース 大統領の動静” 「チョン・ドゥファン大統領は、北朝鮮スパイの検挙者を労(ねぎら)いました。また“急激に左傾化した一部の分子が反体制は勢力とつながることで、…
1 「何も言わずに、皆、いなくなっていくからさ。置き去りにして忘れて行くからさ。勝手だわね」 裸で抱き合う男女。 「世界一周って何?遠洋の船?」 「マジェロ、トラック、ニューカレドニア、サンチャゴ、レシフェ、ケープタウン、ラスパルマス、カディ…
1 「毎日、君が戻るのを荒れ地で待っていた」「…私を信じて。私は必ず戻ってくるわ。何があろうと」 荒野を散策し、廃墟となった館に辿り着くエミリー・ブロンテ。 「荒れ果てた館。誰が住んだのか。どんな生涯か。何者かに導かれるように、私は書き始めた…
1 「違法行為になる。加担したら刑務所行きだ」「不公平よ。もしかしたら流産するかも」 1960年代のフランス。 寄宿舎生活をしている文学専攻の大学生アンヌは、寄宿生仲間のブリジットとエレーヌらとクラブへ踊りに行き、男性からよく声をかけられる。…
リトル フロリダ州マイアミ。 悪ガキたちに追いかけられ、廃墟のアパートに逃げ込んで来た黒人少年シャロン。 その様子を見ていた麻薬売人のフアンが廃墟を訪れ、隠れているシャロンを食事に誘う。 警戒して黙っているシャロンを自宅へ連れて行き、一緒に暮…
1 「息子がね。また迷子になってしまったんですよ」 自宅の団地でピアノ教室を開く葛西百合子(以下、百合子)が、シューマンのピアノ曲「子供の情景 7番 トロイメライ」を弾いている。 玄関の音がしたので立ち上がると、百合子が一輪の花を持ってキッチン…
【本作は、優れた構成力による衝撃的なドキュメンタリーの必見の作品です(筆者)】 1 「どうして彼らはあんなに怒ってるのか。僕が“聖域”を侵したからだ。“集金システム”の暴露だ」 「私の身に何かあった時は、このビデオを公表し、世界に伝えてほしい。彼…
1 「なんもないところに、何かがポツンてある感じがしっくり来てる」 千瑛と署名の入った椿を描いた水墨画を見入り、涙を流す大学生の青山霜介(そうすけ、以下霜介)。 神社での水墨画の展示会の設営のバイトに来ていた霜介は、西濱湖峰(にしはまこほう、…
1 「音楽をする理由がある」 シェイファー音楽院 秋学期 ジャズ・ドラマーとして有名なバディ・リッチに憧れる19歳のアンドリュー・ニーマン(以下、アンドリュー)は、最高峰のシェイファー学院の教室でドラムの練習をしていると、突然高名な指導者フレ…
1 「どうか僕に、家族な大事な時間を共有させてほしい。そうすれば、あなたたちの闘いを手伝える」 ニューヨーク 1971年 離婚した妻子に見放され、酒浸りで落ちぶれた生活を送る写真家、ユージン・スミス(以下、ジーン)。 かつて専属カメラマンをして…
1 「あなたは説明したがるけど、私は、ただ素直に感じたいの」 序章 「ユリヤは失望した。集中できない。成績はいいのに、次々と入る情報で気が散る。世界では解決できない問題が山積。不安な時は、猛勉強や“デジタル漬け”で紛らわそうとしていた。これは自…
1 「体の中に人間が欲しい…子供が欲しいの。心の支えに」 レニングラード 終戦直後の秋 「のっぽさん」と呼ばれるイーヤは、戦場で負傷して帰還し、軍病院の看護師をしている。 そのイーヤが今、PTSDの発作の耳鳴りで立ち尽くしている。 意識が現実に戻…
1 「目標までの時間、2分半。敵滑走路には“第5世代機”が待機。一騎打ちになれば、F-18の君らは死ぬ…だから最大の敵は“時間”だ」 「このプログラムはキャンセルだ。マッハ10の目標を達成できなかった」 「期限は2か月先だ。今日のテストはマッハ9…