トレーニングデイ(‘01) アントワーン・フークア <「公正」の観念によって葬られる、「上下関係で固められた、構造化された秩序」>

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1  疑心暗鬼で揺れる若き捜査官の良心を甚振り、利用する男の容赦なき狡猾さ    
 
 
 「俺、刑事になりたいんです」
 
 自ら志願し、ロス市警の刑事部・麻薬取締課に配属された、妻子持ちのジェイクの言葉である。
 
 彼の相棒となったのは、ベテラン刑事のアロンゾだった。
 
 いきなり、「トレーニング」という名目で、麻薬売買の現場に立ち会い、マリファナを買った白人の若者に銃を突きつけ、逮捕する過程をジェイクに見せつけ、協力させて、その場は一件落着し、白人らを解放させるだけ。
 
今度は、「良い麻薬捜査官になれ」という名目で、あろうことか、交差点の真ん中で相棒のジェイクに銃を突きつけ、強引にマリファナを吸わせるのだ。
 
 アロンゾに誘導された車内で、路地裏でレイプされかかっている少女を視認したジェイクは、降車するや、二人のヤク中と格闘し、少女を救うに至るが、それを見ていたアロンゾは、レイプ男を叩きつけたばかりか」、金を強奪する始末。
 
 「3人の賢者」(市警の上司)から令状を買い取って、潜入捜査官の部下と共に、麻薬密売人・ロジャーを襲い、逮捕の代わりに、床下に埋めてある大金をせしめ、それを仲間で山分けした挙句、証拠隠滅のために、そのロジャーを撃ち殺すのだ。
 
 この一件を収めるためにアロンゾが取った手段は、潜入捜査官がロジャーに撃たれたことで、ジェイクがロジャーを撃ち殺したという乱暴な行動だった。
 
 一週間前からのシナリオだったのである。
 
 防弾チョッキを着ていながら銃弾が貫通して、重傷を負った潜入捜査官と共に、アロンゾから騙されたことを知ったジェイクは、そのアロンゾが与える金を拒絶する。
 
 それでも、「正当防衛」なので罪に問われないジェイクに対して、なお、自分の仲間であることを思い込ませようとするアロンゾ。
 
疑心暗鬼で揺れる若き捜査官の良心が、今、決定的に試されている。
 
 「3人の賢者」たちと、後述するヒスパニック系のギャングらの話によれば、事件の背景には、ラスベガスでロシアン・マフィアの幹部を殺害したアロンゾが、その代償として、100万ドルを支払うタイムリミットが迫っていたという由々しき事実があった。
 
 そのため、アロンゾは「ロジャー襲撃事件」を捏造(ねつぞう)したである。
 
そして今、ジェイクを同行し、アロンゾはヒスパニック系のギャング・スマイリーの家に連れていくが、ジェイクを置き去りにし、本人は帰ってしまうのだ。
 
 置き去りにされたジェイクは、ヒスパニック系のギャングらとポーカーをさせられるが、アロンゾの100万ドルのタイムリミットが今日である事実を知らされた挙句、ギャングらに監禁されるに至る。
 
ここで、ジェイクが置き去りにされた理由は、恐らく、「ロジャー襲撃事件」に絡む悪徳警官・アロンゾの秘密を知っていて、一切の証拠を残さないというアロンゾ流のあくどいやり方で、金を払って、自分に服従しないジェイクをギャングらに抹殺させようと企んでいたからだろう。
 
それを知らないジェイクだけがギャングの餌食にされたのである。
 
しかし、そのジェイクを救ったのは、例のレイプ未遂の14歳の少女だった。
 
ジェイクが拾い、携帯していた、件の少女の身分証明書を目にしたスマイリーが、少女の叔父だったことで、少女の確認を得るに至り、ジェイクが解放されたという顛末(てんまつ)だった。
 
解放されたジェイクは、アロンゾとの対決に向かっていく。
 
愛人宅にいたアロンゾに銃を向け、追い詰めるが、激しい銃撃戦が展開される。 
 
狡猾(こうかつ)なアロンゾに徹底的に甚振(いたぶ)られるジェイク。 
 
「お前は何もできねぇさ」 
 
アロンゾから奪った金を証拠にして、反撃するジェイクはアロンゾに銃を向け、今度こそ、「警官を殺す警官」になろうとするが、アロンゾの挑発的言辞に反応し、アロンゾの尻を撃つのみ。 
 
「俺は全能だ。俺がこの街を仕切ってるんだ!」 
 
支配下にあった黒人街のギャングたちにも裏切られ、叫ぶばかりのアロンゾは、ギャングたちから解放されたジェイクが、その場を去っていく現場を見せつけられ、万事休すだった。 
 
全てを失った瞬間である。 
 
100万ドルのタイムリミットを切ったことで、待ち伏せしていたロシアン・マフィアによって被弾し、蜂の巣になったアロンゾの死体が晒されていた。 
 
 

人生論的映画評論・続/トレーニングデイ(‘01) アントワーン・フークア <「公正」の観念によって葬られる、「上下関係で固められた、構造化された秩序」> )より抜粋http://zilgz.blogspot.jp/2016/05/01.html