日本の年金制度をやさしく解説する

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1  「人生100年時代」の中で、「人生脚本」を前向きに発想し、自律的に考えていく


【ここでは、批評含みの言及で括りつつも、基本的には批評抜きで解説している】

2019年、厚生労働省が「年金財政」の検証結果を、「社会保障審議会年金部会」(厚労相の諮問機関)に提出した。

今後100年にわたって推計し、若い世代に対し、厚生年金・国民年金の財政健全度の将来像を示す重要な作業である。

結果からは、基礎年金の最低保障機能の強化や、低成長が続く中でも、年金の実質価値を毎年下げるルール(マクロ経済スライド)への改定の制度改革の必要性が読み取れる。

厚労省が年金の定期健診と呼ぶ「財政検証」は、「年金改革法」(2004年)によって、原則5年に1度の実施が義務づけられているが、この3度目に及ぶ検証によって炙(あぶ)り出されたのは、若い世代が求めるに足る年金が確保できない恐れがあること。

この大問題を今、私たち日本国民は認識せねばならない。

ここから、日本の年金制度をやさしく解説していく。

まず、押さえておきたいのは、社会人1年生の給与明細から天引きされた厚生年金保険料は、件(くだん)の1年生の将来の年金額にならないという事実である。

では、誰に支給されるのか。

現在、年金を受け取っている高齢者に支給されるのである。

これは、日本の年金制度の仕組みを理解すれば、すぐ分ること。

日本の年金制度が、現役世代が高齢世代を支える「賦課(ふか)方式」になっているからである。
公的年金の保険料の総額は36兆円で、これに税金を加算した収入総額は53.5兆円。(図示した通り)。そして、給付は総額51.6兆円となっている。

ここで、国民年金に上乗せされて給付される、会社員の厚生年金保険料を示すと、給与×18.3%で、これを、会社負担と自己負担が9.15%の折半になる。

日本の公的年金は「2階建て」になっていると言われる所以である(図示・厚労省)。

現在、「賦課方式」によって、高齢者に支給される年金額の平均が、月額約22万であるのに対して、20歳以上60歳未満の国民全員が必ず加入することになっている国民年金=「基礎年金」が、満額のケースで1人あたり約6万5000円。

年金の受給年齢は原則65歳。

前倒しで60歳から受給したり、先送りで70歳から受給するのも可能だが、前者の場合、最大で30%程度減額する一方、後者の場合は42%増額するので、自身の健康状態が判断の目安になるだろうか。

ただ、医療の驚異的な進化によって、日本国民の平均寿命が伸びている現実を踏まえ、後者に一括するシステムの定着化を目指して、政府は制度の見直しを検討している。

但し、少子高齢化の問題がリアリティを帯びてきて、「減っていく年金額」の深刻度に如何に対処するかというテーマが、我が国の「生き死に」に関わる問題にまで膨れ上がってきた。

現在の受給者と、将来世代の受給者の間の格差が広がっていること。

この辺りは最重要課題なので、後述する。

国民年金=「基礎年金」の話に戻す。

この国民年金の保険料は定額であり、2016年度は月額16260円となっている。

加入期間に応じて決まる国民年金の支給額を、2015年度価格の算定式で言えば、少し複雑だが、780100円×(加入月数÷480)ということになっている。

加入期間が満期の40年間ある場合には、満額がもらえるが、それより少ないと、少しずつ減っていくシステムである事実を押さえておきたい。

ここで、もう一度、「現役世代が払った保険料を高齢者に給付する、『世代間での支え合い』の仕組み」について、長文だが、厚労省の広報から引用する。

公的年金制度は、いま働いている世代(現役世代)が支払った保険料を仕送りのように高齢者などの年金給付に充てるという『世代と世代の支え合い』という考え方(これを賦課方式といいます)を基本とした財政方式で運営されています(保険料収入以外にも、年金積立金や税金が年金給付に充てられています)。  
また、日本の公的年金制度は、『国民皆年金』という特徴を持っており、20歳以上の全ての人が共通して加入する国民年金と、会社員が加入する厚生年金などによる、いわゆる『2階建て』と呼ばれる構造になっています。
具体的には、自営業者など国民年金のみに加入している人(第一号被保険者)は、毎月定額の保険料を自分で納め、会社員や公務員で厚生年金や共済年金に加入している人(第二号被保険者)は、毎月定率の保険料を会社と折半で負担し、保険料は毎月の給料から天引きされます。
専業主婦など扶養されている人(第三号被保険者)は、厚生年金制度などで保険料を負担しているため、個人としては保険料を負担する必要はありません。
老後には、全ての人が老齢基礎年金を、厚生年金などに加入していた人は、それに加えて、老齢厚生年金などを受け取ることができます。このように、公的年金制度は、基本的に日本国内に住む20歳から60歳の全ての人が保険料を納め、その保険料を高齢者などへ年金として給付する仕組みとなっています」(厚労省ホームページ)

以上で述べているように、専業主婦で、夫が会社員や公務員の場合は、原則60歳まで保険料を払わずに、基礎年金を65歳から受け取れる。

これは「第三号被保険者」と呼ばれている。

パートで働いている場合、年収106万円までなら厚生年金に加入せずにすむため、働き過ぎないよう調整する主婦もいるのは、よく知られている。

また、従業員が受け取る「給付額」があらかじめ約束されている企業年金がある。

確定給付企業年金」と「確定拠出年金」という、2つの私的年金である。

最も多く利用されている「確定給付企業年金」は、企業が利回りを事前に決めて運用する企業年金であるのに対し、「確定拠出年金」は自ら運用する私的年金で、安定志向の強い日本人が、運用手段を自分で選ぶ後者よりも、前者を選択するのは必然の理であると言える。

ここで、「減っていく年金額」の問題に言及する。

1945年生まれで厚生年金に加入していた人は、保険料負担1000万円に対し、受給できる年金額が5200万円で、これは保険料の5.2倍にあたる。

ところが、1990年生まれ(Y世代=「氷河期世代」=「ロストジェネレーション」、アメリカではミレニアル世代)の人は3200万円の保険料に対し、受給額は7400万円で、これは保険料の2.3倍と低下する。

世代間の格差が顕著であることが判然とする。

以上が、厚労省の試算である。

様々な波紋を呼び、話題となった金融庁・金融審議会の「市場ワーキング・グループ」(座長 神田秀樹 学習院大学大学院法務研究科教授)の報告書によると、95歳まで生きる場合、公的年金に頼った生活設計では2000万円が不足すると指摘し、「資産寿命」(長い老後を暮らすための資産の蓄え)を延ばすことを求めたことで、年金制度への不信感がピークに達し、国民からの不満が炸裂した。(金融庁ホーム・令和元年6月3日)

当然のことである。

今や、人間の「生理的寿命」(限界寿命)が、「資産寿命」を追い抜いてしまったという事実の重さ。

資産が底が突きたら「老後難民」になるということか。

一言で要約すれば、ウェルビーイング(良好な状態)の老後を過ごすためは、自助努力が不可避であると言っているのだ。

「人生100年時代」の中で、「人生脚本」を前向きに発想し、自律的に考えていくことには何の問題もないが、「老後資金2000万円問題」の骨子は、本来的に金融機関サイドの問題であって、国民の自助努力の範疇を超えている事実を軽視していること。

これが問題なのである。

それでも、安定的な資産形成を望み、自助努力を怠らない多くの日本国民にとって、より豊かな老後生活を送るために、「老後資金2000万円問題」を主体的に受け止めていくだろう。

従って、「人生100年時代」を生きるには、例えば、NISA(ニーサ・少額投資非課税制度/注1)・IDECO(イデコ・個人型確定拠出年金/注2)などの私的年金が、資産形成方法の一つの手立てとして活用しやすく、有効であると思われる。

(注1)「2014年1月にスタートした、個人投資家のための税制優遇制度です。通常、株式や投資信託などの金融商品に投資をした場合、これらを売却して得た利益や受け取った配当に対して約20%の税金がかかります。毎年一定金額の範囲内で購入したこれらの金融商品から得られる利益が非課税になる、つまり、税金がかからなくなる制度です」(金融庁ホーム)

(注2)「個人型確定拠出年金(IDECO)は、確定拠出年金法に基づいて実施されている私的年金の制度です。この制度への加入は任意で、ご自分で申し込み、ご自分で掛金を拠出し、自らが運用方法を選び、掛金とその運用益との合計額をもとに給付を受けることができます。また、掛金、運用益、そして給付を受け取る時には、税制上の優遇措置が講じられています。」(IDECO公式サイト)

「時代の風景:日本の年金制度をやさしく解説する」より

https://zilgg.blogspot.com/2019/09/blog-post.html

 

(2019年9月)