<「逃走」を拒み、「闘争」に踏み込み、「戦士」を立ち上げた男の「生き延び戦略」―― その壮絶な暴力の戦略的風景の凄み>
1 「僕には研究がある。余計な事に関わりたくなかったんだ」
宇宙数学者デイビッドは、奨学金を受給して、星の内部構造と放射線の関係を研究している。
暴力が蔓延するアメリカ社会を嫌い、長閑な田舎での研究を切望して、妻エイミーの故郷であるイギリスの実家に引っ越して来た。
しかし、古い家の納屋の修理に雇った、エイミーの地元の知人たちとの関係に戸惑い、仕事に専念して家のことに関与しない夫に、エイミーも不満を吐露する。
エイミーに対して、デイビットは、きっぱりと言い切った。
「僕はトースターの修理や大工仕事をしに、ここに来たんじゃない」
「それじゃ、なぜ?」
「研究に専念するためさ。それがこのザマだ」
「あなたが来たのは、戦う勇気がなかったからよ」
「何のことだ!」
沈黙するエイミー。
「僕には研究がある。余計な事に関わりたくなかったんだ」
「でも本当は…ここに逃げてきたのよ」
「君が来たいと…それで決心したんだ」
「ごめんなさい」
平和主義を標榜するデイビットと、エイミーの会話の一端である。
そのエイミーには、村の多くの知人の中に、昔の恋人チャーリーがいる。
選りに選って(よりによって)、そのチャーリーと、柄の悪い仲間たちが納屋(車庫)の修理に当たっているのである。
彼らの関心は、色気を漂わせるエイミーのみ。
だから、デイビットの存在は余所者(よそもの)でしかなかった。
そんな状況下で、エイミーが可愛がっている猫の死体が、寝室のクローゼットに吊り下げられるという事件が発生した。
明らかに、納屋の修理をしている男たちの仕業であったが、証拠がない。
「あなたを挑発してるのよ」
それを認めながら、デイビットは我関せずという態度に終始する。
この一件後、どこまでもストレンジャーでしかない若い夫婦の日常性を、狭隘な地域コミュニティの澱んだ視線が囲繞していく。
チャーリーを含む4人組(クリス、スカットら)に狩りに誘われたデイビットは断ることができず、翌日、狩猟に参加する。
猟場に着き、デイビットは場所を指定され、4人組はそれぞれの狩場へと消えていく。
しかし、それは巧妙に仕組まれた罠だった。
主人なきエイミーの家にチャーリーが現れ、強引にレイプし、諦念したエイミーもセックスに溺れてしまう。
銃口をチャーリーに向け、スカットが出現したのは、その時だった。
エイミーを暴力的に陵辱したのである。
狩りで鳥を仕留め、意気揚々と自宅に戻って来たデイビットを待っていたのは、いつもと様子が違うエイミーの自虐的な態度だった。
デイビッドを臆病者呼ばわりし、自分も同じだと言い放つ。
それを気にするが故に、臆病者という烙印を認めないデイビッドは、自ら納屋の修理をする4人組に解雇通告して、追い出したのだ。
翌日、教会の懇親会に参加した二人は、そこで4人組とも顔を合わせることになる。
陵辱のフラッシュバックに襲われるエイミーの異変に気付き、妻を連れ、デイビッドは早々と教会を立ち去った。
妻エイミーに何が起こったか、デイビッドは知る由もないが、チャーリーとの関係を察知したと思われる。
そんな時だった。
精神障害者のヘンリーが、チャーリーの叔父であるトムの娘ジャニスに連れ出され、納屋に籠(こも)って誘惑され、大事(おおごと)になっていく。
二人の行方が見えなくなったことで、一方的にヘンリーが誘ったと思い込んだトムは、ヘンリーの兄を殴り倒す。
更に、二人の息子にジャニスとヘンリーを捜し出すことを命じるが、兄たちの声に気づいたジャニスは納屋から出て行こうとする。
しかしヘンリーは、いつものように兄に殴られることを怖れ、ジャニスを引き留めた。
ヘンリーが誤って、ジャニスの首を絞めてしまったのはその時だった。
怖ろしくなったヘンリーは、納屋から出て、濃霧の中を必死に彷徨(さまよ)う。
そこへ、デイビッドの運転する車が通りかかり、ヘンリーを撥(は)ねてしまった。
デイビッドはヘンリーを家に連れて帰り、怪我の手当てをし、医者を探すために、トムたちが寄り集まっているバーに電話をかけた。
ヘンリーがデイビッドの家にいると分ったトムと4人組が、逸(いち)早く、銃を手にデイビッドの家に押しかけて来るのだ。
ここから開かれる映像こそ、本作のコアとなる。