「臭気」という、階層の絶対的境界の不文律 ―― 映画「パラサイト 半地下の家族」('19)の風景の歪み  ポン・ジュノ

f:id:zilx2g:20200815093630j:plain

1  「半地下」の貧しい一家が、「高台」に住む富裕なパク家に入り込んでいく

 

 

 

北朝鮮による度重なるテロ攻勢によって、事態の悪化を防ぐ一つの手段として、韓国政府が構築した防空壕(避難場所)=地下室(半地下=半分地下に埋まった部屋)。

 

ここに住む貧しいキム家。

 

事業に何度も失敗している父親のギテク、元ハンマー投げの選手ながらも、今は内職に精を出す妻チュンスク、大学入試に失敗し続けている長男のギウ、予備校へも通えない美大志望のギジョンの4人家族である。

 

一家は、宅配ピザのパッケージの組み立ての内職で糊口を凌いでいたが、不良品の多さを指摘され、生活もままならない。

 

そんな折、ギウの友人ミニョクがキム家を訪れ、富をもたらすという山水景石(さんすいけいせき)の置物を運んできた。

 

そのミニョクは、自分が家庭教師をしている富裕なパク家の女子高生ダヘの後任にギウを紹介し、浪人中のギウはソウル大学の入学証書を偽造し、パク家を訪れた。

 

ギウを迎えたのは、パク一家が入居する以前から家政婦として働いているムングァン。

 

かくて、パク夫人は、フルタイムでギウの授業の様子を見学する。

 

「実践は勢いだ」

 

このギウのインパクト満点の言葉で、夫人の心を掴み、ギウは採用されるに至った。

 

次に、ダヘの弟のダソンの絵の家庭教師として、ギウが紹介したのは妹のギジョン。

 

早速、ギウはギジョンを連れてパク家を訪れた。

 

落ち着きがなく、腕白で、どの家庭教師もお手上げだったダソンを手懐(てなず)け、小1の時のトラウマ体験(この伏線は回収される)を聞き出し、絵画療法で克服するというギウの提案に感動した夫人は、ダソンの美術家庭教師としてギジョンを採用することを決めた。

 

次に、パク家に入ったのは、父のギテク。

 

その契機となったのは、パク家の専属運転手がギジョンをベンツで送る際、自分のパンティを助手席に残したことで、それを見つけたパク氏がコカイン漬けの女とカーセックスをしたと勝手に解釈して、解雇するに至ったからだ。

 

その運転手の後任として、ギジョンが紹介したのがギテクだった。

 

「道に詳しいですね」と朴氏。

「38度線以南なら路地裏まで。運転歴、約30年ですから」とギテク。

「長く続ける方を尊敬してます」

言葉巧みに、パク家に入り込んでいくキム一家。

 

そして遂に、長年勤めてきた家政婦ムングァンが、桃アレルギーであることをダヘから聞きつけたギウが、彼女を追い出すシナリオを作り上げ、ギテクにセリフを教え込んでいく。

 

ギウは帰り際に、ムングァンの背中に桃皮の毛の粉末を振り撒く。

 

激しい喘息状況に陥ったムングァンは病院に行くが、そこにギテクが待ち受け、自撮りを装って、彼女が結核にかかっている証拠として、夫人に言いつける。

 

買い物から戻ったギテクと夫人の前で、その帰宅に合わせてギジョンにより、再び桃皮の軽量の粉末を撒かけたムングァンは激しく咳き込んでしまうのだ。

 

かくて、キム家の連係プレーで、ムングァンの結核を確信した夫人は彼女を解雇し、遂に、母親チュンスクが家政婦として、パク家に入り込ませることに成功する。

 

「僕は度を超す人は大嫌いだ。短所と言えるのは、ただ一つ。よく食べること。毎日、2人分は食べてたとか」

 

これは、ギテクに吐露したパクの言葉。

 

この言葉の意味は、まもなく明らかにされる。

 

この時点で、誰も、その意味を理解できていない。

 

ギテクの示した偽造名刺がパクから妻に渡され、夫人は早々に会員制の家政婦派遣会社に電話する。

 

その電話に対応するのは、声のトーンを変えたギジョン。

 

会員になるために必要な書類(家族関係証明書・身分証のコピー・土地台帳などの所得証明書)をメモさせる。

 

かくて一家4人は、パク家で与えられた仕事に就くことになった。

 

以下、   人生論的映画評論・続: 「臭気」という、階層の絶対的境界の不文律 ―― 映画「パラサイト 半地下の家族」('19)の風景の歪み  ポン・ジュノ」より