獣は月夜に夢を見る('14)   ヨナス・アレクサンダー・アーンビー

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<「村社会」の破壊的暴力に抗し、自らの「獣性」によって弾き返す少女の成長譚>

 

 

 

1  獣人化した少女が拉致した者たちを噛み殺していく

 

 

 

北欧のとある漁村に住み、魚の加工工場で働く少女マリーは、そこに勤める仲間たちから魚の廃棄物の水槽に落とされるという、手荒い歓迎を受けた。

 

家に帰ると、自身も定期受診しているラーセン医師が、父と深刻な面持ちで話をしていた。

 

母の病気の診察に訪れたというが、マリーは不安げな表情で、ラーセンが持ってきた書類を部屋に持ち帰り、中身を確かめる。

 

そこには、発疹の出ている画像やX線写真があった。

 

ラーセンが帰った後、いつものように、父は母の腕に注射を打ち、浴室で体を洗い、背中の毛を剃っていた。

 

その場を覗き見しているマリーに父は気づくが、そこに会話がなかった。

 

マリーは工場生活に慣れ、そこでダニエルと親しくなる。

 

食堂で、入社日に水槽にマリーを突き落としたエスベンが話しかけてくるが、マリーは無視する。

 

「母親に似たのか?」

 

その言葉を聞くや、マリーはコップを投げつけた。

 

その場にいたフェリックスは、マリーを庇い、二人は外で煙草を吸って寛ぐ。

 

「母親の具合は?」

「いいわ」

 

更衣室で着替えていると、二人の男(一人はエスベン)に抑えつけられ、魚を顔に押し付けられるという悪質な嫌がらせを受ける。

 

シャワーを浴びると、マリーの胸の発疹が更に赤く広がっていた。

 

衝撃を受け、呼吸を荒げるマリー。

 

車椅子の母を連れ、散歩しているマリーに、バイクに乗ったダニエルが話しかけてきた。

 

ダニエルは母親の手を握り、挨拶する。

 

ダニエルからの遊びの誘いを断って、帰宅したマリーは、母親に食事の世話をする。

 

「母さんは何の病気?」

 

マリーは、一番気になっていることを父に尋ねた。

 

そのまま部屋に戻ったマリーを父が呼び出すと、マリーは父に胸の発疹を見せた。

 

再び、ラーセンが自宅にやって来た。

 

「もう、隠しておけない…先生から、お前の病気について話がある」

「病気のせいで君の体に異変が起きているはずだ。お母さんの症状から判断して、君の体はどんどん変わっていき、体じゅうが毛深くなるだろう。それだけじゃない。感情面でも、気が短くなり、攻撃的になる。だから薬を飲んだほうがいい」

「薬は飲まない」

「いうことを聞け」と父。

「父さんこそ聞いて。先生が間違ってる。私は絶対に飲まないから」

 

そう言うや、マリーは家を出て、港の外れにある廃船の中に入っていく。

 

先日、盗み見したラーセンの資料の画像の中に気になる画像があったからだ。

 

船内で発見したのは、其処彼処(そこかしこ)にある爪痕だった。

 

その直後、マリーはフェリックスの家を訪ねた。

 

「港にあるサビついた古い船の持ち主は?」

「ロシア人の2人組」

「今、どこに?」

「ロシアで酒をあおってるよ」

「母さんが乗船したことは?」

「お前の母親は…美しいが、怖がられていた。お前と同じだ。首を突っ込むな」

 

フェニックスの誘いで、二人はナイトクラブに踊りに行く。

 

そこにダニエルもいた。

 

マリーはダニエルの耳元で囁いた。

 

「私が怪物になってしまう前に抱かれたいの。手伝ってくれる?」

 

店を出て、二人は廃船の中で結ばれる。

 

マリーの裸の背中には、背筋に沿って体毛が伸び始めていた。

 

帰宅するや、父とラーセンがマリーを抑えつけ、注射を打とうとするが、母がラーセンに襲いかかり、殺害してしまう。

 

ラーセンの死体処理をする父。

 

フェリックスの話したロシア人の二人も、母に手を出して殺されたことを父は認めた。

 

ラーセンの失踪は、村人たちの噂になっていて、マリーの家に村の者たち(工場の関係者)が訪れ、母の爪や歯茎を確認していった。

 

マリーは工場に出勤するが、既に、工場の従業員はラーセンの失踪を知っていて、マリーに冷たい視線が投げかけられる。

 

帰宅すると、母が浴槽で溺死しているのを発見する。

 

自死である。

 

絶叫する父。

 

孤立を深めるマリーと父。

 

母の棺を送り出す二人に、村人たちは、遠くでひそひそと噂しながら、父娘に冷たい視線を向ける。

 

教会で葬儀が始まった。

 

マリーの両手の爪が赤く滴り、血が落ちた。

 

その指のまま、構わずマリーは弔問客にコーヒーを振舞う。

 

父の制止を聞かず、敢えて自らの姿を晒していくのだ。

 

自宅に帰っても挑発的な行動を止めないマリー。

 

コップのガラスを食べ、口の中を血だらけにするのだ。

 

「いい加減にしろ。止めろ!」

 

マリーは服を着替え、出勤しようとする。

 

「外では助けてやれない。家にいろ」

 

マリーは父の制止を振り切って、工場に出かけ、仕事を続けるのだ。

 

マリーの更衣室のロッカーには、大量の魚の廃棄物が投げ入れられていた。

 

それだけではなく、自転車で帰ろうとすると、複数のバイクで追いかけられ、フェリックスの家に助けを求めて走っていくが、反応はなかった。

 

更に逃げていくと、一人の男に襲われるが、反対に噛み殺してしまう。

 

廃船で寝ていると、ダニエルがやって来た。

 

「起きて、マリー。寝てる場合じゃない。早く逃げないと、やつらが捜してる」

「何があったの?」

「覚えてない?」

エスベンを殺した」

「まさか」

「船を用意して迎えに来るから、ここで待ってろ。一緒に逃げよう。どう?」

 

マリーはいったん家に戻り、リュックに荷物を詰め、脱出の準備をする。

 

父が部屋にやって来た。

 

「キレイだ」

 

そう言って、娘を思い、涙する。

 

「マリー。バカなマネはするな」

 

優しく語りかけ、娘を見送る父。

 

廃船に戻ると、そこにはダニエルではなく、フェリックスを含む工場の従業員らがマリーを待ち受けていた。

 

殴られたマリーは、漁船の地下室に拉致されてしてしまう。

 

ダニエルはマリーを救おうと、密かに船に乗り込んだ。

 

出港した船内では、既に獣人化した狂暴なマリーが次々に拉致した者たちを噛み殺していく。

 

最後に殺害されたのはフェリックスだった。

 

その惨状を目の当たりにしたダニエルだが、そんな獣人の顔になったマリーを優しく抱きしめる。

 

翌朝、意識を失っていたマリーが目を覚ます。

 

「ダニエル?」

「ここにいる。君のそばに」

 

そう言って、ダニエルはマリーの手を握り締める。

 

ラストカットである。

 

人生論的映画評論・続: 獣は月夜に夢を見る('14)   ヨナス・アレクサンダー・アーンビーより