夜明けの祈り('16)   アンヌ・フォンテーヌ

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<「暗闇で叫んでも、誰も応えない」冥闇の世界 ―― それが十字架だった>

 

 

 

1  「この恐ろしい出来事と、信仰の折り合いがつきません」

 

 

 

修道院から戒律を破って逃げ出した一人の修道女。

 

フランス赤十字の病院に駆け込み、助産の助けを求めるが、ポーランド人は無理だと断られる。

 

対応したのは女医マチルド。

 

彼女が窓の外を見ると、追い返したはずの修道女が、祈りを捧げている。

 

直ちに、修道女の意を汲んで、マチルドは彼女と共に修道院へ病院車を走らせた。

 

到着すると、臨月の女性が苦しんでいた。

 

マチルドは即座に手術を施し、赤ちゃんを取り上げた。

 

それを見守る院長マザー・オレスカとシスター・マリア。

 

マチルドは合併症の危険があるので、翌日、ペニシリンを届けに来るとマリアに申し出る。

 

「“讃歌”の時に来て。夜明けの祈りよ。皆が祈っている間に中へ」とマリア。

 

翌日、マチルドを連れて来た修道女は叱責を受ける。

 

「もう二度としないように」とマリア。

「8日間、部屋で祈りなさい」とオレスカ。

 

そして、夜明けの祈りの最中に、マチルドは再び修道院を訪れる。

 

出産したシスター・ゾフィアの手術の手当てをしたが、産まれた新生児は既に叔母に預けられ、修道院にはいなかった。

 

更に、もう一人、妊娠中のシスターが倒れたのを知らされると、マチルドはオレスカに呼ばれ、状況の経緯の説明を受ける。

 

独軍に占領された後、ソ連軍がやって来た。ソ連兵が、この修道院に侵入してきた時は、まるで悪夢のようだった…乗り越えられたのは、神のお陰よ。兵士たちは数日間いた」

「何人が身ごもったの?」

「7人。ゾフィアを除けば6人」とマリア。

「神以外の助けもないと。専門家が必要よ。ポーランド赤十字助産師を」

「そんなことをしたら、修道院が閉鎖される。ここを出て、恥をさらすことになる。町中のさらし者よ。死のうとする者も多い」とマリア。

「だから、秘密を守らないと」とオレスカ。

「このままじゃ…」

「手助けします」とマリア。

「どちらにしろ、天国に旅立つだけ。大切なのは命よ」

「誰も修道院には入らせない」とオレスカ。

「ならいいわ。上司に報告する」

 

そう言って、部屋を出ると、マリアが追いかけて来た。

 

「院長が許可を…あなた以外は認められない」

 

その夜、マチルドは同僚の医師サミュエルと酒場で語り合っていた。

 

マチルドは労働者階級の娘で、両親が共産主義者で、自分もその影響を受けたと吐露する。

 

「両親は収容所で死んだ…もうフランスには戻らない。自由だ。君は?」

 

ユダヤ人のサミュエルの話を聞いたマチルドは暗い面持ちになるが、憂鬱なのは嫌だというサミュエルに誘われ、ダンスを踊る。

 

その夜、マチルドのアパートで二人は結ばれた。

 

教会では、オレスカが妊娠したシスターの相談を受けていた。

 

「この恐ろしい出来事と、信仰の折り合いがつきません。神の花嫁になる覚悟でしたが、これが思し召しとは」

「思し召し?」

「出来事は神のご意向では?」

「ご意向はわかりません。確かなのは神の愛のみです」

「私の中に宿った命が、じき姿を現します。神は私にどうしろと?」

「ひざまずいて、祈りましょう。それが唯一の慰め」

 

並んで祈る二人。

 

出産したゾフィアにマリアが慰める。

 

「厳しい試練だけど、信仰と使命感をさらに強くしてくれる」

 

後任の神父が来ないが、2か月後に「誓願式」(入会後に、終生、神に奉献することを誓うカトリック教会の儀式)を行うので、それまでにマチルドの診察を受けるようにと、オレスカはシスター全員を前に訓示した。

 

早速、シスターたちが順番にマチルドの診察を受けていく。

 

中には、診察を拒否する者もいた。

 

「地獄へ行きたくない」

 

ポーランド語を通訳するマリアはマチルドに説明する。

 

「罰を恐れてるの…現実はどうあれ、貞節を守る必要があるの」

「凌辱されたのは、わかるけど、私はどうすればいいの?」

「複雑よ。肌を見せてはいけないので。人に触らせるのも罪だから」

「危険を冒して来てる。診察中だけ、神を脇に置けないの?」

「そういうわけには…説得してみる」

 

しかし、順番を待つシスターは一人もいなくなっていた。

 

その帰路、マチルドはソ連兵に車を停止され、レイプされそうになり、激しく抵抗する。

 

将校に制止され、最悪の事態は避けられたが、通行止めで再び修道院へ引き返さざるを得なかった。

 

ショックを受けたマチルドは、修道女たちの「夜明けの祈り」に聴き入る。

 

そんな中、ソ連兵が修道院に押し掛けてきた。

 

シスターたちは逃げるが、ソ連兵は敵を匿っていると決めつけ、修道院内を隈(くま)なく捜索しようとする。

 

ソ連兵の前に立ち塞がったマチルドは機転を利かせ、チフスが流行していると告げ、彼らを追い返すのだ。

 

チルダに礼を言うオレスカ。

 

しかし、そのオレスカもまた、ソ連兵にレイプされていたのだった。

 

マリアも堪えきれず、嗚咽する。

 

「どんなに祈っても、心が慰められないの。毎日、あの時の光景が甦ってくる。男たちの臭いまで。彼らは3回来た。毎回必ず…殺されてもおかしくない。殺されなかったのは奇跡よ。私は、まだ運がいい方なの。ここへ入る前に恋人がいたから。でも、大半が処女だった」

「それでも、信仰を失わない?」

「信仰というのは…最初は子どもと同じ。父親に手を引かれて安心する。そして、ある時、父親が手を離す時が。必ずやってくる。暗闇で叫んでも、誰も応えない…不意に襲われ、心を打ち砕かれる。それが十字架よ」

 

その直後、シスターたちがマチルドの元に走り寄り、口々に称(たた)えながら彼女を抱擁する。

 

「私たちを見捨てないで」

「あなたは救世主よ」

 

しかし、「救世主」のマチルドがフランス赤十字に戻ると、上司の大佐から無断外出を厳しく咎められるのである。

 

マチルドが置かれている状況はシビアになっていく。

 

 

人生論的映画評論・続: 夜明けの祈り('16)   アンヌ・フォンテーヌより