東ベルリンから来た女(‘12)  クリスティアン・ペツォールト

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<凛として越境し、地域医療を繋いでいく>

 

 

 

1  「私が地方に飛ばされた理由も知っているのね…孤立させてもらうわ」

 

 

 

1980年夏 旧東ドイツ ベルリンの壁崩壊後の9年前。

 

「孤立しない方がいい。ここの職員は敏感だ。首都ベルリン、大病院…みんな、卑屈になる」とアンドレ

「自分も卑屈になりたくないから、そう言うの?」とバルバラ

 

ベルリンからトルガウ(現・ドイツ東部。ザクセン州の都市)の小児外科病院に左遷されて来た女医バルバラ

 

その初日の態度を見て心配する同僚医師のアンドレは、彼女を車で送る際での会話である。

 

「道を聞かなくても、私の家へ行けるわけ?私が地方に飛ばされた理由も知っているのね…孤立させてもらうわ」

 

そんな物言いをするバルバラが地方へ左遷された理由は、西側への出国申請をしたこと。

 

以来、東独のディストピア(監視社会)の象徴・シュタージからの監視が強化されている。

 

バルバラを監視するシュタージの局員(諜報員)の名はシュッツ。

 

そんなバルバラが、人民警察(東独の準軍事組織)から連れて来られた少女・ステラを診ることになる。

 

髄膜炎か?ダニかな」とアンドレ

「たぶんね…草むらに6日間、隠れたって。マダニの生息地よ」とバルバラ

 

処置を終えたステラの病室で、アンドレバルバラに忠告する。

 

「ステラの入所は4度目で、仮病とサボりの常習犯だ…甘やかしは禁物だ」

 

バルバラは自転車で駅に出て、電車に乗り換え、レストランへ行く。

 

レストランのトイレで、ウエイトレスの一人から小包を受け取る。

 

そこには、待ち合わせ場所・時間のメモ・金が入っていた。

 

その小包を、十字架の下の岩に隠すバルバラ

 

夜になって官舎に戻ろうとすると、シュッツが車から声をかけてきた。

 

数時間、行方不明だったという理由で、彼らはそのまま部屋に入って来て、家宅捜索するのだ。

 

翌朝、出勤して来なかったバルバラを、アンドレが訪ねて来る。

 

「ステラが君以外の医師の処置を拒んでる」

 

童話を読んでもらえる喜びに浸るステラににとって、バルバラの存在は「解放者」として映っているようだった。

 

病院へ向かう車の中で、ステラが妊娠中であることをアンドレから知らされる。

 

以下、病院での短い会話。

 

「妊娠が本当なら、大変なことになる。堕ろさなきゃ」

「本人の希望か?」

「本人は知らない」

 

バルバラは血清の結果を再確認するために、アンドレの研究施設を利用して、自ら確かめる。

 

結果は同じだった。

 

アンドレの医師の技量を認知するバルバラ

 

「なぜ地方にいるの?人を監視するため?」

「ここが好きだ」

「私を説得する気?」

「何の説得?」

「出国申請を出すなと。“医者になれたのは、労働者と農民のお陰だよ”と」

「確かにそうだ」

 

そんな会話の後、バルバラはメモにあった待ち合わせの森に行く。

 

そこに仲間の運転で、西側の恋人ヨルクがやって来て、束の間、愛し合う二人が、そこにいた。

 

夜遅く出勤したバルバラは、ステラにいつものように絵本を読んで聞かせる。

 

「自分で読めるようになると、作業所に戻される。私を助けて、先生」

「やってみる」

「作業所には戻りたくない。耐えられないの。先生、赤ちゃんができた。何とかして」

「堕ろしたいの?」

「いいえ、違うの。トルガウから逃げたい。この国から逃げたいの」

 

疲弊し切っているバルバラを仮眠させたアンドレが、コーヒーを持って入って来た。

 

「報告書に書くの?」

「昔、ある病院にいて、ニュージーランド製の機器が入った。未熟児用の機器だ。保育器では助からない子を助ける。取扱説明書は英語で260ページ。読もうと努力したよ。僕には助手がいた。英語が少しできるから手伝ってくれた。疲労困憊の僕に、言ってくれた。“やっておきます”。機器の接続を任せた。ところが彼女は、摂氏と華氏を間違えた。異常に圧力が上昇し、2人の網膜を破壊した。名前はマイクとジェニファー。命は助かった。でも光を失った。僕の責任だよ。研究の道は絶たれ、ベルリン行きも消えた。もみ消してやる代わりに、地方で働けと。守秘義務が課せられた。報告の義務も。でも出世欲はない。3年前だ」

 

この話で、アンドレの置かれている立場が判然とする。

 

二人の会話は、ステラを救助する一件に転じていく。

 

「トルガウ作業所の実態は知ってる?作業所とは名ばかりで、抹殺するための施設よ」

 

そう吐き出すステラにとって、ディストピアからの解放だけが拠り所なのだ。

 

しかし、最長2日間しか退院を伸ばせないとアンドレに指摘され、困惑するバルバラ

 

かくてステラは、人民警察に無理やり連行されるに至った。

 

バルバラの名を呼び、泣き叫ぶステラに近寄り、抱き締めることしかできないバルバラ

 

監視の目を潜(くぐ)り、外国人専用ホテルに向かうバルバラ

 

恋人のヨルクが、ホテルの窓からバルバラを迎い入れた。

 

バルバラ、僕が君の所へ来るよ。東で暮らそう。ここで君と幸せになるんだ」

「気は確か?この国では無理」

 

そして、岩場に船で迎えにいくというその場所を指定するヨルク。

 

「決行はいつ?」

「この土曜の夜だ」

「勤務日よ。休まなきゃ」

「西に行けば眠れる。僕の稼ぎで十分だ。働かなくていい」

 

ヨルクの言葉には、医師としてのバルバラに対する基本的な認知の欠如が読み取れる。

 

人生論的映画評論・続: 東ベルリンから来た女(‘12)   クリスティアン・ペツォールトより