LION/ライオン 〜25年目のただいま〜('16)    ガース・デイヴィス

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<人間の性(さが)に揺さぶられ、葛藤し、突き抜けていく>

 

 

 

1  浮浪生活の果てに

 

 

 

これは真実の物語(冒頭のキャプション)

 

【インド カンドワ 1986年】

 

「サルー!やったぞ。今日は、たくさん石炭を取った」

 

いつものように、サルーは兄グドゥのリードで貨物列車に乗り込み、石炭泥棒をする。

 

奪った石炭を市場で牛乳に替え、母の元に届ける。

 

その牛乳を分け、妹である乳児のシェキラにも飲ませるのだ。

 

母はその牛乳をどこで手に入れたかを兄弟に聞くが、答えない。

 

母はそのまま、仕事に出かけていった。

 

そして、グドゥはシェキラの世話をサルーに頼み、「1週間の大人の仕事」に出ようとするが、サルーはどうしても一緒に行くと言う。

 

2人は夜の街に繰り出し、列車に乗り込む。

 

駅に着き、眠り込んで起きないサルーをベンチに置いて、グドゥは仕事を見つけに行った。

 

待っているように言われたサルーだが、目が醒めてグドゥを探しているうちに、回送列車に乗り込み、遥か遠くに運ばれてしまったのである。

 

この悲哀に満ちた実話ベースの物語の起点である。

 

西ベンガルカルカッタ カンドワから東へ1600キロ】

 

聖女マザーテレサの活動拠点・カルカッタの駅に着くと、大量の乗客が乗り込んで来て、そこでサルーは、漸(ようや)く列車から降りることができた。

 

大勢の人たちに揉(も)まれながら、当て所(あてど)なく彷徨うサルー。

 

水飲み場で一緒だった少女の後をつけ、地下道へやって来ると、段ボールを敷布団にして、同じ年頃の子供たちが屯(たむろ)していた。

 

その一角に段ボールを敷き、眠っていると、得体の知れない大人たちがやって来て、子供たちを捕捉していくのだ。

 

サルーは必死に走って逃げていく。

 

カルカッタの夜の街に出たサルー。

 

路上に眠り、朝を迎える。

 

線路の上を歩いていると、ヌーレという女性に出会い、彼女の家に連れられ、食事をご馳走になる。

 

そこに、ラーマという男がやって来て、サルーの身体検査をする。

 

「あの子なら合格だ」

 

ヌーレにそう囁(ささや)くラーマもまた、人買いだったのだ。

 

身の危険を察知したサルーは、ヌーレの家を飛び出し、走り去っていく。

 

【それから2カ月】

 

浮浪生活を続けるサルーは、一人の青年と出会い、警察に連れられて行く。

 

ヒンディー語しかしゃべれないんです。“家はどこ?”と聞いても、“ガネストレイ”と言うだけ…母親の名前は?」

「母ちゃん」

 

まもなく、孤児院に収容されるサルー。

 

「ここは、とってもひどい所よ」

 

最初に知り合った、アミタという少女の話である。

 

体罰も辞さない孤児院の中では、性的虐待も横行している。

 

そんなサルーが、ミセス・スードの斡旋で里親を紹介される。

 

オーストラリアの南方海上に位置するタスマニア島(注)に住む、ジョンとスー夫妻だった。

 

「運がいいわ。オーストラリアは、いい所よ」

 

アミタの言葉で、サルーは決心がついたのか、明るい表情で、ミセス・リードのテーブルマナーや英語を学ぶのだった。

 

飛行機に搭乗し、オーストラリアへと旅立った。

 

 

人生論的映画評論・続: LION/ライオン 〜25年目のただいま〜('16)    ガース・デイヴィス   より