<同性愛の矯正治療の無意味さを弾劾し、克服していく>
1 「妄想が罪なら、神に赦しを求める」
「何も起きなければよかった。でも、起きたことを神に感謝する」
主人公・ジャレットのモノローグである。
「全員で、“光を輝かせろ”。ここに集う完璧でない方は、手を上げて」
そこに集う全員が手を上げた。
ジャレットの父で、牧師マーシャルの言葉である。
その中には、ジャレットと母・ナンシーの姿もあった。
「救済プログラム」という名の矯正治療を行う施設がある。
ナンシーに車で送られたジャレットは入所手続きを済まし、9時から5時までの12日間に及ぶ、この「救済プログラム」に参加することになった。
ナンシーは施設近くのホテルに泊まり込み、そこでジャレットを送迎することになった。
施設では、携帯・日記などの私物は取り上げられ、保管される。
そればかりではない。
喫煙・飲酒・ドラッグの禁制・治療内容はすべて内密にする守秘義務、更に、トイレはスタッフの監督下で利用すること、治療期間中の読書・映画・テレビの禁止等など、細かな禁止事項やルールが、参加メンバーたちの日常になっていく。
早速、初日のサイクスの授業が開かれていく。
「“私は性的な罪と、同性愛によって、神の形の空洞を埋めた”」
サイクスのこの言葉を、11人の参加メンバー全員が復唱するのだ。
「“だが、砕けてはいない。神が私を愛する”」
同様に、メンバーが一斉に復唱する。
「…これからの12日間は、とてもキツいが、実りは大きい。目的は、ただ一つ。我々の身を神に戻すことだ。再び神を招き入れ、神が我々を想像した真意を理解すること。ここへ来る道のりは、つらかっただろう。だが、今日からは楽になる。共に力を合わせ、すばらしい旅に出発するからだ」
こうして、全員の和やかな笑顔と拍手によって、治療訓練がスタートする。
「“同性愛者に生まれる”というが、それは違う。嘘だ。私はカウンセラーで牧師だ。そのように生まれたか?違う。それは行動と選択の結果だ…行動の原因を知り、断ち切ることを学べば、もう“烙印”を押されない」
その原因とは、“家族関係図(ジェノグラム)”に示されるという。
ジェノグラムとは家系図のようなもので、親類の行動パターンを記号で示した表である。
Hが同性愛、Dはドラッグ、Aはアルコール依存症、Mは精神疾患、等々である。
「彼らが君たちを作った」
全員が床に寝そべり、紙を広げ、指示されたように、各人の家系図と彼らの罪を書き始めていく。
ジャレットは、高校時代に恋人のクロエに性的関心が持てなかったエピソードを思い出していた。
5時になり、迎えに来たナンシーに、レストランで施設の様子を聞かれるが、他言無用とされているので、「一生懸命頑張る」としか反応できなかった。
ただ、宿題として親族の問題行動について知るために質問をするが、ナンシーは「まともな一族よ」であると答えるが、「女性的な雰囲気」の叔父がいたことを付け加える。
翌日の講義。
男らしさを教授するのはブランドン。
「本当の男とは、信心深い男のことだ。私は深く神を信じる。だが、以前は違った。息子が“家族関係図”を書けば、私の名の横に多くの記号が並ぶ…だが、諸君のような性的問題とは無縁だ…苦しむ君たちは、学ぶ必要がある。生き残る術を。刑務所では、生き残るために何でもやる」
自らの矯正の成功体験から、男らしさを教授するブランドンが、屋外で体を鍛えるためのメニューを開始する。
教室に戻り、自分の罪を一覧にし、神に赦しをもとめるという、“心の清算”を、メンバーの前で発表するという授業が始まった。
その日は、サラという少女が自身の問題行動を話し、赦しを求めた。
ホテルに戻ったジャレットは、その“心の清算”の宿題に取り組んでいた。
そこで、大学時代のエピソードを回想する。
クロエと別れた後、大学の寮で知り合ったヘンリーについて書こうとしているのだ。
友人となったヘンリーは、ある日、ジャレットの部屋に泊まり、無理やり彼をレイプした。
「僕はどうかしている。すまなかった」
ヘンリーはジャレットに謝罪し、自分が同性愛者であり、過去にも同じことをしたと告白する。
それ以来、ジャレットは自分自身の中に、同性愛の感情が芽生えていることに悩み始める。
大学のカウンセラーと名乗る何者から、自宅にかかってきた電話で、ナンシーはジャレットの行動の変化を聞かされた。
問い詰める父・マーシャル。
「同性愛者か?」
ジャレットは、電話の主がカウンセラーではなく、ヘンリーであることを両親に話す。
ジャレッドに忌避(きひ)されたと思い込んだ故の、ヘンリーの行動だったと思われる。
そのヘンリーが教会で少年をレイプしたことを聞いた父は、事実なら通報すべきだと主張する。
「我々には、神に与えられた権利が。だから、男と女が結びつき、新たな命を創造する。それほどの責任を与えるくらい、神の愛は大きい」
しかし、「それは違う」と真っ向からに反発するジャレット。
「(クロエと)別れたのは、僕に関する話が本当だから。男のことを考える」
ジャレッドの告白である。
言葉を失う両親。
「理由は分からない。ごめんなさい」
父は早速、牧師仲間を家に呼び、この問題を相談する。
「心底から、変わりたいと願うか?」
父親に問われたジャレットは、長い沈黙の後、「はい」と答えた。
ここから、ジャレットの矯正施設行きが決まったのである。
回想シーンが閉じて、現実の非日常の世界に立ち返っていく。
スタッフ同伴でないと入れないトイレに、一人で入ったジャレットは、それを見たブランドンに「カマ野郎」と蔑まれる。
苛立つジャレットに、メンバーの一人のゲイリーが声をかける。
「実態が分かってきた?大丈夫か?」
「平気だ。何でもない」
「助言しておく。役を演じるんだ。信じさせろ。“治ってる”と。“できるまで、フリをしろ”だ。長期間“家”に入れられてしまうぞ…君もそうなりそうだ…無事帰れたら、次のことを考えればいい。でないと、すべて放棄させられる。人間関係も。君もスピーチをでっち上げておけ。“治療”を信じるなら別だ。変わる気ならな」
その後、“心の清算”に頓挫したキャメロンが、皆の前で、悪魔祓いの儀式が行われることになった。
聖書で、家族やメンバーが次々に叩くのだ。
如何わしい現場に立ち会って、施設の治療方針を受容できないジャレットの懊悩は深まっていく。
そして、長期入院となったサラと目が合う。
それは、ゲイリーが言う、「長期間“家”に入れられてしまう」現実の重みの実感だった。
「一緒にいてほしい。神は打ち砕かない」
大学の「神 VS.サイエンス」の展示会で知り合ったゼイヴィアの声が蘇る。
そんな状況下で、ジャレットの“心の清算”の発表の日がやってきた。
隔離されていたキャメロンも、戻って来ていた。
ジャレットは、自分の思いを発していく。
「男性を想った。学校の子たち、テレビや町で勝手に想像した。大学で、男性と手を握り、朝までベッドに。この行為や、様々な妄想を後悔している」
ここで、サイクスがそれだけではないと決めつけ、正直に話すことを求める。
「話すんだ。他には?」
「一度も、朝まで一緒にいたけど、何もしていない」
「神に嘘をつこうとするな。すべて、ご存じだ…ヘンリーのことを話せ。お父さんから聞いた」
「その話はフェアじゃない。僕の罪じゃないから」
どうしても、性的関係もなく、妄想だけで「救済プログラム」に参加したことを信じないサイクスは、ジャレットに告白させようと強いるが、ジャレットはそれを頑として拒否する。
「それも罪じゃないんですか?妄想が罪なら、神に赦しを求める。でも、作り話はしてない」
サイクスは、“嘘の椅子”を持って来るや、反駁(はんばく)するジャレットの怒りを吐き出させようとする。
「君の、その怒りを前向きに活かしたい」
ジャレットは椅子に座ろうとしないが、目の前の椅子に父親がいると想定し、憎しみをぶちまけるように指示するのだ。
「怒ってない」
「いや、君は怒っているんだ」
「なぜ、僕が怒らないといけないんです?」
「いいから座れ。座れ」
「犬じゃない!誰にも責任はない!誰かを憎むなんて無意味だ!」
「憎んでないなら、君の怒りは、どこから?」
「あなただ!」
「その怒りを使え!」
「父を憎むフリはしない。憎んでない!」
「君は憎んでいる」
「何が分かる!!みんな、狂ってる!」
そう言い捨てて、ジャレットは教室を出て行く。
「僕は、あなたを憎んでる!」
ジャレットは預けた荷物を奪い、阻む教官を振り切り、トイレに逃げ込んで、ナンシーに迎えに来て欲しいと、涙ながらに電話する。
サイクスは、ジャレットの行動は、「一時的な感情によるものであり、自然なことだ」と言い放ち、二人で話そうと語り掛ける。
そこに、ナンシーがやって来た。
ドアを叩くナンシーに対し、サイクスは応じようとしない。
「彼は今、動揺してるだけです」
「今すぐ、開けなさい!開けないなら警察を呼ぶ」
そこで、一部始終を見ていた大柄なキャメロンが、教官に突き飛ばし、「開けてやれ!」と叫ぶ。
サイクスが扉を開けると、ナンシーはジャレットと共に、車に走っていく。
「彼は破滅します」
後方から、サンクスは言い放った。
「一体、あなたの資格は何?一度も聞いてない。医者?心理学者?ちゃんとした本物?違うわね。思った通り。恥知らず!」
立ち竦むだけのサイクス。
ナンシーは車内でも叫ぶ。
「私もだわ。(サイクスに向かって)恥知らず!」
レストランで、ナンシーはジャレットに、マーシャルが施設に戻るように言っていることを伝える。
「家で話そうと伝えたわ。(私は)絶対に戻さない」
ナンシーは、父親と牧師たちが集まり、男たちだけで施設に入れ、苦痛を与えることが必要だと話し合った際に、何かが違うと感じつつも、黙って従った自分を悔いていた。
「私には、はっきり分かった。こんな苦痛は間違いだと。でも、あなたを救わず、口を閉ざし続けた。この先、後悔し続けるわ。でも、もう黙っていない。その時が来たのよ。お父さんを説得する」
しかし、牧師であるマーシャルは簡単に認めることができなかった。
教会で信者たちの前で、教会に来ているだけの不信心者を指弾する。
暗に、息子に向かって説教しているのだ
そんな折、キャメロンが自殺したとナンシーから告げられたジャレットは、自宅にやって来た警察の質問に答えるが、衝撃を隠せなかった。
矯正治療による「救済プログラム」の胡散臭さが露わになったのである。