体育会系の懐深くに飛び込み、仇を討つ、醇乎たる男の物語 映画「宮本から君へ」('19)の峻烈さ 真利子哲也

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1  出口の見えない時間の只中で、激しく葛藤する男と女

 

 

 

時系列を前後させながら構成された物語は、主人公・宮本浩(以下、宮本)が、中野靖子(以下、靖子)を連れて実家に戻り、唐突に父親に宣言するところから「現在パート」が開かれる。

 

「僕、この人と結婚するから」

 

父親の同意を得たものの、母親からは快(こころよ)い反応を得られない。

 

当然のことだった。

 

警察沙汰になるほどの喧嘩で相手にケガを負わせ、前歯が欠け、自らもギブスをした状態で、何の相談もなく、出し抜けに結婚すると言い放ったばかりか、靖子が妊娠していると知らされた母親は、安易に受容できようがなかった。

 

実家の2階に布団を敷いた夜の帳(とばり)の中で、嗚咽する宮本。

 

あの日、靖子に自宅アパートに誘われ、食事をしているところに、靖子の元恋人の風間裕二(以下、風間)が勝手に入り込んで来た。

 

「あたし、あの子と寝たよ」

 

そう言われ、風間は靖子を殴り飛ばす。

 

「この女は特別だ。この女は俺が守る!」

 

身震いしつつも、突として、宮本は本音を吐き出すのだ。

 

それを耳にした風間は、宮本の耳元で、「女殺し」と言い捨てて去って行く。

 

「裕二と切れるために、あんたを利用しただけだから。あんたって、便利な男だわ…女だったら、一生に一度くらい、あのセリフ信じたいじゃない。信じちゃ、ダメ?それとも、嘘だったの?」

 

帰ろうとした宮本は靖子を思い切り抱き締め、二人は結ばれる。

 

翌朝、昨日の修羅場で死んだ金魚を土に埋めながら、宮本はしみじみ呟く。

 

「幸せだ。俺、頑張るから」

 

―― 「現在パート」。

 

今度は、宮本と靖子は、結婚の報告に靖子の実家を訪ねる。

 

母親と妹は宮本を気に入るが、父親は結婚を了承したものの、収まりが悪い様子だった。

 

「東京へ出す時、こういう真似だけはしないって、約束しなかったか?」

 

娘・靖子への、寡黙に徹した父からの、穏やかな物言いだが、痛烈な一撃だった。

 

―― 過去パート。

 

宮本の取引相手の真淵部長との待ち合わせに遅れて来た靖子は、いきなり、初対面の真淵(まぶち)に怒鳴られる。

 

誠実に謝罪した靖子は宮本と共に、ラグビー仲間の飲み会に参加する。

 

ラッパ飲みを強いられた宮本は、調子に乗り、酔い潰れてしまうのだ。

 

二人を送るために、真淵の息子・拓馬(たくま)が呼び出された。

 

「年上の女、調達してやるよ」

 

面倒臭(めんどくさ)がる拓馬を、大学の先輩である大野が、そう言い放ち、説得したのだ。

 

この拓馬は、現役ラグビー部員の巨漢である。

 

自宅に送った拓馬は、前後不覚になって就眠する宮本の傍(かたわ)らで、靖子を手籠め(てごめ)にする。

 

翌朝、公園にいた靖子を探し、宮本は声をかける。

 

「あんたはもう、救いようがないよ」

「靖子、何か、怒ってる?」

「別に。呆れてるだけ」

「俺、何かした?」

「何にも。あんたは寝てただけ」

「寝てちゃ、悪いのかよ!」

「悪くないよ。あんたは、何も悪くない…でもね、あんたが死ぬほど憎い!」

「何?」

「犯された…」

 

靖子の呟きを耳にして、宮本の顔が見る見るうちに変わっていく。

 

「今更、遅いんだって、そんな顔!あんたは寝ていて、アホずらして寝てたんだから…消えろ!宮本」

 

宮本の頬から涙が溢れている。

 

女のアパートの部屋。

 

男と女の激しい葛藤が、出口の見えない時間の只中で身体化され、「頑張れ!」と叫ぶ男の思いが無残に生き残されていた。

 

―― 「現在パート」。

 

靖子の実家近くにある海岸で、稲妻が走っている。

 

そこで靖子は、歯抜け状態で言葉が抜ける宮本の差し歯治療代として、風間から40万円の借金をしたことを告げるのだ。

 

「何で、あんな奴に!」

 

怒号する宮本に対して、靖子は言い切った。

 

「宮本!こんなことで腹を立てるわけ。もっと強くなんなよ。私は命二つ持って生きてんだ。あんたに負けないよ」

 

「女」をシンボライズする髪を短くした靖子には、もう、怖いものがないようだった。

 

 

人生論的映画評論・続: 体育会系の懐深くに飛び込み、爆裂する男の純愛譚 映画「宮本から君へ」('19)の苛烈さ 真利子哲也 より