ダラス・バイヤーズクラブ('13)   ジャン=マルク・ヴァレ

<理不尽な差別を受けている「弱者」を救う男のカウボーイ魂>

 

 

 

1  「もう少し、時間がほしい。心の準備をさせてくれないか。まだ死ぬことに向き合えないんだよ…」

 

 

 

ロデオのカウボーイであり、電気技師のロン・ウッドルーフ(以下、ロン)は、ロデオ仲間で賭博をして金を稼いでいる。

 

薬と女遊びに暮れる自堕落なロンは、最近咳が止まらず、警官の弟タッカーから体調を案じられているが、一向に気にしない。

 

工事現場の電気がショートし、目にダメージを受けたロンは病院に搬送され、担当医のセバード医師から血液検査の結果、エイズに感染していると告げられた。

 

ロンは自分がホモでないと言い張り、検査が間違いだと捲し立てる。

 

「事態の深刻さを理解して頂きたい。身体所見や、検査結果などから見るに、あなたの余命は30日です」

 

それでも、ロンはバカバカしいと言うや、検査結果の用紙を投げつけ、病院を後にした。

 

そんなロンの生活は変わらない。

 

1日目。

 

コカインを吸引し、女性たちを自宅に呼んで、友人と共にセックス・パーティをする。

 

しかしロンは、身体がふらつき、思うように動かない。

 

そこで、友人に自分が医者にエイズと診断されたと話すが、ホモではないし、医者は適当だと言い放ち、気にする素振りを見せない。

 

「正しかったら、どうする?」

「何が?」

「診断さ」

 

ロンは友人に酒を賭け、お互いに笑い合う。

 

「無類の女好きだもんな」

 

そんな男だったが、翌日ロンは図書館へ行き、エイズの本を探して調べ捲るのだ。

 

一方、病院では拡大するエイズの治療薬について議論していた。

 

FDA(食品医薬局)から臨床試験の承認を得ていると製薬会社の担当者が、癌の治療薬であるAZTの治験を勧める。

 

ロンは資料から、ホモだけではなく、異性の避妊をしない性行為でエイズに罹患することや、17%が静脈注射のドラッグ使用者である事実を知り、思い当たる女性との交渉を頭に浮かべた。

 

7日目。

 

ロンは病院へ行き、セバード医師を指名するが不在だったので、最初の診察時にロンを診たイブという女性医師が対応する。

 

ロンはイブに対して、AZTを要求する。

 

出し抜けだった。

 

「アボネックス社が、臨床試験を始めただろ。売ってくれ」

 

二重盲検(医師・患者の双方を不明にして行う臨床試験)とプラセボ効果(偽薬効果)の結果に1年を要するので無理だと断られると、更に、ロンは調べたエイズ薬の入手を要求する。

 

「FDAが承認してない」

「俺は死ぬんだぞ。薬のために、病院を訴えようか?」

「残された時間をムダにするだけよ。支援団体の集会が、毎日開かれてる。心配事の相談に乗ってくれるはずよ」

 

酒場に行くと、ロデオ仲間たちの態度が変わり、ロンとの接触を避けようとする。

 

ホモ野郎と罵倒されたロンは、殴りかかるが、友人のT.Jに阻止され、唾を吐いて出て行ってしまう。

 

紹介された集会場に行き、パンフレットだけ取って出て行ったロンは今、ショーパブで神に祈っていた。

 

ふと見ると、病院で見た清掃員がいることに気づき、近づくロン。

 

8日目。

 

ロンは清掃員に頼み、病院裏でAZTを受け取り、服用する。

 

9日目。

 

以降も、AZTを手に入れては服用し、同じような生活を送るロン。

 

28日目。

 

薬の管理が厳しくなったと、清掃員からメキシコの医師を紹介される。

 

怒ったロンは殴りかかるが、その場で倒れて気を失ってしまう。

 

イブに声をかけられ、ロンが目を開けると、そこは病院のベッドだった。

 

セバードに、血中からAZTが検出されたと指摘される。

 

「医薬品の違法取引は罰せられます」

「分かってる」

 

その直後、同室のトランすジェンダーレイヨンから声をかけられ、レイヨンがAZTの被験者として入院していることを知る。

 

ロンは病院を勝手に出て、自宅に戻り、有り金を掻(か)き集めて、メキシコへ向かう。

 

30日目。

 

紹介されたメキシコのバスの病院へ辿り着く。

 

「クスリのやりすぎで、免疫系が随分やられてる。コカインもAZTも免疫を弱める。製薬会社が儲かるだけで、飲んだ患者の細胞は死んでいく。免疫系の回復のためにビタミン剤と亜鉛を飲め」

 

AZTの無効性を指摘されるのである。

 

3か月後。

 

「T細胞が増えてる」

 

【T細胞は免疫の司令塔の役割を果たす】

 

バスにそう言われ、AZTより毒性が低い、アメリカで未承認のddⅭを渡され、「これこそがペプチドTだ。タンパク質で毒性はない」と言われるのだ。

 

【現在、ddⅭ(ジデオキシシチジン)とペプチドTは、エイズ治療における抗ウイルス剤として有効】

 

ロンは大量のddⅭを車に載せ、国境を越えようとするが、検問で見つかってしまう。

 

FDAの担当官のバークレーから、持ち込みできるのは90日分だと指摘される。

 

ロンは神父の癌患者を装い、一日33錠必要で、他にビタミン剤など30日分だと反論する。

 

何とか自分用だと言い逃れ、解放されたロンは、テキサスに戻ると、早速薬を売り始めた。

 

そこにレイヨンが現れ、25%の分け前を与えるという取引が成功し、以降、二人は相棒となっていく。

 

遂にロンは、“ダラス・バイヤーズクラブ”を設立し、ゲイに会員権を売り、薬を提供するという商売を立ち上げるのだ。

 

 

人生論的映画評論・続: ダラス・バイヤーズクラブ('13)   ジャン=マルク・ヴァレ より