「泣く子はいねぇが」('20)  佐藤快磨  破綻から再生までの途方もない旅路

1  「止めて欲しいように見えた…あんなところで働かせるような奴に渡したくない」

 

 

 

娘が産まれたばかりの若い夫婦、たすく(・・・)とこ(・)と(・)ね(・)の会話。

 

「ちゃんとしようよ。このままじゃ、無理だと思う」

「何が?」

「なーんも、考えていないっしょ」

「凪(なぎ)、産まれたばっかで、俺たち、ケンカしってしょうがないでしょ」

「凪(を)、言い訳しないでよ」

「それは、本当にごめん。でも、父親はいた方がいいでしょ」

「当たり前でしょ」

 

たすくは、男鹿半島の伝統行事・ナマハゲ(ユネスコ無形文化遺産)の人手が足りないと頼まれ、出て行こうとする。

 

「やんないって、約束したよね?」

 

酒を飲まずに途中で抜け出すと、ことねと約束したが、ナマハゲ保存会の集まりに顔を出すと、会長の夏井に第一子誕生の祝儀を受けとり、最後まで引き受けざるを得なくなった。

 

晦日に恒例のナマハゲ行事が佳境に入り、各家で酒を振舞われて、親友の志波(しば)にも飲まされ、たすくは泥酔してしまう。

 

テレビ中継でインタビューを受ける夏井。

 

「ナマハゲですね、ただ泣かすためだけの鬼じゃないんですよ。悪いことをしないで、正しく生きる、そういう人としての道徳を教えてくれる神様なんですな。そのナマハゲから、父親は子供を守る。守られた子供たちも、いつかは、父親となって守る立場になっていくと。ナマハゲは、男たちにね、そうやって、父親としての責任を与えてきたんですね。ナマハゲは、新しい年を迎える前に、今一度、家族の絆を見つめ合うっていう、大切な行事なんですな」

 

その中継中に、ナマハゲの面をつけ全裸となって叫び、町を彷徨(さまよ)うたすくの姿がテレビに映し出されてしまった。

 

中継会場は混乱し、凪を抱いたことねはテレビでその様子を見る。

 

放送事故でテレビは中断する。

 

なおも叫びながら走るたすくは、夜の浜辺に出て、寝転んでしまった。

 

2年後。

 

地元にいられなくなったたすくは東京へ行くが、仕事場でも浮いて適応できないでいる。

 

そんな折、志波が訪ねて来た。

 

店で、2年ぶりに行われたナマハゲ保存会のテレビ中継での夏井のインタビューを観る二人。

 

その志波から、離婚したことねの父が亡くなり、ことねがキャバクラで働いていると知らされる。

 

「お前、父親だろ」

「お前に関係ねぇから。お前、他人だろ」

 

たすくは一人で帰ろうとすると、客とぶつかり喧嘩となり、結局、朝まで志波と時間をつぶし、東京の町を眺めながら、意味のない会話をする。

 

「楽しいよ、こっちは」

 

そう話すたすくだったが、その直後、母と兄の住む男鹿の実家に帰っていく。

 

「突然帰って来て、なした?皆にチンコ見られてな。お前はいいな、好き勝手生きれて」

「許してもらうまで謝るしかないと思ってます」

「少なくとも、もう誰も、おめぇに謝って欲しいと思ってねぇよ。皆、忘れようとしてくれてんのに、おめぇが余計なことして、どうすんのや…要は、帰って来てみただけなんだべ。許してくれると思って」

「違う」

「いやいや、違うとかじゃなくて、傍から見たら、そうなの」

 

孤立無援のたすくの居場所が、故郷にない現実を実感せざるを得なかった。

 

たすくは志波に会い、「ことねに会いたい」と漏らす。

 

志波と共に夜のネオン街へ行き、ことねが勤める店を探すが、見つからない。

 

たすくは、アイスクリーム売りの母と仲間の送迎の運転手をして日銭を得る。

 

志波から、ことねが勤める店を知らされ、早速訪ねると、ちょうど店の前で吐瀉していることねがいた。

 

「大丈夫?」

「何しに来たの?」

「お父さんのこと、聞いた。志波から」

 

その言葉を無視して、帰ろうとすることね。

 

「ことねと凪の力になりたい」

「じゃ払える?養育費とか慰謝料とか」

「こんなん、一番、嫌がってたじゃん。酒だって、めっちゃ弱いのに」

「あなたみたいに、バカなことしない」

「ごめん。本当に、ごめん」

「もう、いい?」

 

歩き出すことねに縋って、言い放つ。

 

「金稼ぐ。払う。許してもらうまで、俺…」

「私、再婚するの」

 

呆然と立ち竦むたすく。

 

たすくは、志波に自分の思いを語る。

 

「止めて欲しいように見えた…あんなところで働かせるような奴に渡したくない」

 

まもなく、たすくと志波はサザエの密猟をして、金を稼ぐのだ。

 

危ないと思ったたすくは、ハローワークで就職先の相談をしていると、夏井に首を掴まれ、引き摺らていった。

 

夏井は2年半分の苦情の手紙を、たすくに突き付ける。

 

「おめぇのおかげでなぇ、ナマハゲ終わるところだぁ。俺たち、ボランティアでねぇんだよ。命だ、命!」

「申し訳ありませんでした」

「おめぇのオヤジさんが、どういう思いで、あの面一つ一つ彫ったか、分かってんのかぁ?知らねぇのかって!」

「すいません、すいません」

 

謝罪するばかりの男は、その後もサザエの密猟を続け、少しずつお金を貯めていく。

 

たすくの脳裏を駆け巡るのは、ことねのことばかりなのだ。

 

  

人生論的映画評論・続: 「泣く子はいねぇが」('20)  佐藤快磨  破綻から再生までの途方もない旅路 より