あのこと('21)  欲望の代償の重さ

1  「違法行為になる。加担したら刑務所行きだ」「不公平よ。もしかしたら流産するかも」

 

 

 

1960年代のフランス。

 

寄宿舎生活をしている文学専攻の大学生アンヌは、寄宿生仲間のブリジットとエレーヌらとクラブへ踊りに行き、男性からよく声をかけられる。

 

そして学業は優秀で、教師からの評価も高い。

 

そんなアンヌは、ノートに“まだ生理が来ない”と書き記す。

 

浮かない表情で、両親が経営する小さな食堂に行く。

 

顔色が悪いと心配する母親は、客にアンナが大学について聞かれると、「優等生で、もうすぐ学士よ」と嬉しそうに口をはさむ。

 

その足でかかりつけの医師の診察を受けると、妊娠していると診断され、衝撃を受けたアンナは、「何とかして」と懇願する。

 

「無理な相談だ。私以外の医師でも違法行為になる。加担したら刑務所行きだ。君もね。最悪の事態も起こり得る。毎月のように運を試して、激痛で亡くなる女性がいる。そうならないように」

「不公平よ。もしかしたら流産するかも」

「可能性はある」

 

妊娠についての本を読み漁(あさ)り、誰にも相談できず悶々とした生活を送るアンナに、妊娠証明書が送付されるが、破り捨ててしまう。

 

電話帳で見つけた産婦人科へ行き、同様に妊娠していることを告げられ、学業を優先したいと話すと、「帰ってくれ」と相手にされない始末。

 

アンヌは「助けて」と帰ろうとしないので、生理が来る薬を処方されるのみ。

 

腿(もも)に注射を打ち、授業に勤しむアンナだったが、悪阻(つわり)がやってきて、効果はなかった。

 

男性とのセックスの妄想を話すブリジットに、アンヌは妊娠の可能性ついて話すと、エレーヌが「それだけはイヤ」と反応する。

 

「一巻の終わりよ」とブリジット。

「方法はあるけどね」とアンヌ。

「何のこと?」

「産まない方法」

「正気?冗談でも言わないで」

 

友人にも話せず、不安を募らせたアンヌは、女友達が多いクラスメートのジャンに告白し、闇医師の伝手(つて)を相談する。

 

最初は迷惑がるジャンだったが、アンヌを家に招くと、相手の男が政治学専攻の学生で、妊娠のことは知らないなど、根掘り葉掘りいきさつを聞き出そうとする。

 

「君がこんな事になるとは。意外だった」

「妊娠は初めて…来なきゃよかった」

 

ジャンはアンヌにキスをしようとするので、振り払って帰っていく。

 

寮の共同の浴室で、他の学生から夜遊びしていることを批判されると、アンヌは「黙れ!クソ」と振り切ろうとする。

 

「迷惑かけないで…寮にはルールがあって、皆守ってる」

「守れないなら出て行って。昨夜も出かけたのを知ってる」

 

孤立するアンヌは、部屋で一人涙するのだ。

 

7周目に入って、試験の成績が振るわず、アンヌに期待をかけていた教師から声を掛けられる。

 

「教師には才能が分かる。君を認めてた…試験はどうする気だ。受けない?」

「受けます」

 

不振の理由を訊ねられるが、アンヌは答えられなかった。

 

自暴自棄になったアンナは、いつものクラブで男たちから誘われるがままに踊ったり、散歩へ連れ出されようとすると、見兼(みか)ねたジョンやブリジットらが阻止する。

 

反発するアンナだったが、寮で心配するブリジットとエレーヌに、お腹を見せる。

 

「ウソでしょ。なぜ、そんな」とブリジット。

「処置する」

「やめて」

「どうしろと?お願い。誰か探して!」

「どうやって?」とエレーヌ。

「私たちには関係ない」とブリジット。

「だけど…」

「刑務所に入りたい?好きにして。でも巻き込まないで」

 

愈々(いよいよ)、孤立するアンヌの中絶への冥闇(めいあん)なる風景に終わりが見えないかった。

 

  

人生論的映画評論・続: あのこと('21)  欲望の代償の重さ  オードレイ・ディヴァン より