1 「違法行為になる。加担したら刑務所行きだ」「不公平よ。もしかしたら流産するかも」
1960年代のフランス。
寄宿舎生活をしている文学専攻の大学生アンヌは、寄宿生仲間のブリジットとエレーヌらとクラブへ踊りに行き、男性からよく声をかけられる。
そして学業は優秀で、教師からの評価も高い。
そんなアンヌは、ノートに“まだ生理が来ない”と書き記す。
浮かない表情で、両親が経営する小さな食堂に行く。
顔色が悪いと心配する母親は、客にアンナが大学について聞かれると、「優等生で、もうすぐ学士よ」と嬉しそうに口をはさむ。
その足でかかりつけの医師の診察を受けると、妊娠していると診断され、衝撃を受けたアンナは、「何とかして」と懇願する。
「無理な相談だ。私以外の医師でも違法行為になる。加担したら刑務所行きだ。君もね。最悪の事態も起こり得る。毎月のように運を試して、激痛で亡くなる女性がいる。そうならないように」
「不公平よ。もしかしたら流産するかも」
「可能性はある」
妊娠についての本を読み漁(あさ)り、誰にも相談できず悶々とした生活を送るアンナに、妊娠証明書が送付されるが、破り捨ててしまう。
電話帳で見つけた産婦人科へ行き、同様に妊娠していることを告げられ、学業を優先したいと話すと、「帰ってくれ」と相手にされない始末。
アンヌは「助けて」と帰ろうとしないので、生理が来る薬を処方されるのみ。
腿(もも)に注射を打ち、授業に勤しむアンナだったが、悪阻(つわり)がやってきて、効果はなかった。
男性とのセックスの妄想を話すブリジットに、アンヌは妊娠の可能性ついて話すと、エレーヌが「それだけはイヤ」と反応する。
「一巻の終わりよ」とブリジット。
「方法はあるけどね」とアンヌ。
「何のこと?」
「産まない方法」
「正気?冗談でも言わないで」
友人にも話せず、不安を募らせたアンヌは、女友達が多いクラスメートのジャンに告白し、闇医師の伝手(つて)を相談する。
最初は迷惑がるジャンだったが、アンヌを家に招くと、相手の男が政治学専攻の学生で、妊娠のことは知らないなど、根掘り葉掘りいきさつを聞き出そうとする。
「君がこんな事になるとは。意外だった」
「妊娠は初めて…来なきゃよかった」
ジャンはアンヌにキスをしようとするので、振り払って帰っていく。
寮の共同の浴室で、他の学生から夜遊びしていることを批判されると、アンヌは「黙れ!クソ」と振り切ろうとする。
「迷惑かけないで…寮にはルールがあって、皆守ってる」
「守れないなら出て行って。昨夜も出かけたのを知ってる」
孤立するアンヌは、部屋で一人涙するのだ。
7周目に入って、試験の成績が振るわず、アンヌに期待をかけていた教師から声を掛けられる。
「教師には才能が分かる。君を認めてた…試験はどうする気だ。受けない?」
「受けます」
不振の理由を訊ねられるが、アンヌは答えられなかった。
自暴自棄になったアンナは、いつものクラブで男たちから誘われるがままに踊ったり、散歩へ連れ出されようとすると、見兼(みか)ねたジョンやブリジットらが阻止する。
反発するアンナだったが、寮で心配するブリジットとエレーヌに、お腹を見せる。
「ウソでしょ。なぜ、そんな」とブリジット。
「処置する」
「やめて」
「どうしろと?お願い。誰か探して!」
「どうやって?」とエレーヌ。
「私たちには関係ない」とブリジット。
「だけど…」
「刑務所に入りたい?好きにして。でも巻き込まないで」
愈々(いよいよ)、孤立するアンヌの中絶への冥闇(めいあん)なる風景に終わりが見えないかった。