2022-12-01から1ヶ月間の記事一覧

峠 最後のサムライ('19)  己が〈生〉を、余すところなく生き切った男の物語 小泉堯史  

1 「武士の世は滅びる…この継之助も滅びざるを得ない。滅びた後、日本の歴史にかってなかった新しい世の中がやってくる」 「我らの見込みは、政権の奉還より外にない。この判断に、神君家康公の御偉業を継承する唯一の道である。幕府を倒そうと事を謀る一部…

死刑にいたる病 ('22)   叫びを捨てた怪物が放つ、人たらしの手品に呑み込まれ、同化していく

1 「…僕はね、君と話してる時間は、すごく落ち着いていられたんだ。君と話してると、僕は普通の街のパン屋さんになった気でいられたんだ」 筧井雅也(かけいまさや)の祖母が亡くなり、葬儀が執り行われる。 Fランクの大学に通う雅也は、親戚に「東京の大…

ベイビー・ブローカー('22)  「生まれてくれて、ありがとう」 ―― この生育を守り抜いていく

1 「一番売りたかったのは、私なのかも」「私たちの方が、ブローカーみたい」 弾丸の雨の中、一人の若い女が、教会のべイビーボックスの前に赤ん坊を置いて去って行く。 「捨てるなら産むなよ…あの女、任せた」 その様子を見ていたスジン刑事がイ刑事に呟き…

岬の兄妹('18)   炸裂する、障害者という「弱さ」の中の「強さ」 

1 生きるためなら何でもするという生存戦略が渦巻いていた 「真理子、真理子!」と呼びかけながら、足を引き摺り歩き回る男の叫びから物語は開かれる。 下肢機能障害である男・道原良夫(以下、良夫)。 港町の造船所で働く良夫は、警官の友人・肇を呼んで…