2015-11-01から1ヶ月間の記事一覧

ラリーフリント(’96)  ミロス・フォアマン <「宗教国家」アメリカの中枢に風穴を開けた男の物語>

1 「俺は、何か意味あることで覚えられたいんだ」 1952年のケンタッキー州。 アルコール依存症の父親を持つために、ポテトを原料にする密造酒を売り歩くことで、自分たちの力で生計を立てようとする年端もいかない兄弟がいた。 「まじめに稼ぎたいだけ…

悪童日記(’13) ヤーノシュ・サース <外部環境の暴力的な圧力を突破する兄弟の自立化の物語>

1 身体と精神を鍛え、残酷さに馴れる訓練を繋ぐ兄弟の苛酷な情況性 「今は戦争中。1944年8月14日。あの夜、こっそり聞いていた。お父さんは言う。“双子は目立つ。二人を引き離そう” お母さんは泣く。僕らは泣かない。僕らは絶対に離れない。お互いが…

エレニの帰郷(’08) テオ・アンゲロプロス <「時の埃」を浄化する「翼」の不透明感を突き抜けて>

1 「何も終わってない。終わるものはない。帰るのだ」 身震いした。 心の奥深くまで染み込んでくる映像の途轍もない強度は、独立峰の如く屹立する映画作家の独壇場の世界だった。 私にとってアンゲロプロス監督は、ダルデンヌ兄弟と共に、これだけの映像を…

父の秘密(‘12)  ミシェル・フランコ <頓挫されたグリーフワーク ――  その破壊的暴力の風景の痛ましさ>

1 飽和点に達したディストレス状態が、一回的な復讐的エネルギーに変換された男の痛切な収束点 「左右のベンダーにファンカバー、ラジエーター、ヘッドライト、ボンネット、フロントガラス、フロントバンパー、グリル。シャシーと緩衝器を修理して、ウォー…