2013-01-01から1年間の記事一覧
1 人間が複雑に絡み合うときの、複層的なイメージを存分に想起させる逸品の切れ味 「良い映画」と「良くできた映画」。 「私の中の秀作」を勝手に分類すれば、この二つに収斂される。 「良い映画」とは「心に残る映画」であり、「良くできた映画」とは「完…
1 自らが拓いた前線で手に入れたものと、失ったものの価値の様態① 時代の風穴を穿(うが)つことに、全神経網を集中的、且つ、継続的にフル稼働させていく能力において抜きん出た若者が、自らが拓いた前線で手に入れたものと、失ったものの価値の様態を、観…
1 絶対防衛圏 「噺家(はなしか)の名前を何人知っているだろう。テレビによく出ているので3、4人。そんなもんじゃないだろうか。東京で450人あまり、上方も合わせれば600人以上。それが現役の噺家の数だ。寄席は都内でたったの4軒(注1)。そう仕…
1 強いメッセージ性を内包する名画 「大いなる西部」は、ニューシネマ以前に作られた西部劇の中で、フレッド・ジンネマン監督の「真昼の決闘」(1952年製作)と双璧を成すほどに、強いメッセージ性を内包する名画である、と私は考えている。 「西部劇」…
1 オープニングシーンンで映像提示された構図の悲劇的極点 「私はどこの国にいるの?」 これは、説明的描写を限りなくカットして構築した、この群集劇の中でで拾われている多くのエピソードを貫流する、基幹テーマと言っていい最も重要な言葉である。 この…
1 「秩序破壊」のメッセージを持った「子供共和国」=「お子様映画」 爆弾マニアの少年が投擲した自動車爆破に象徴されるように、如何にも70年代初頭の映画らしく、「秩序破壊」のメッセージを持った「子供共和国」=「お子様映画」の典型的一篇。 「大人…
1 「人間は『阿修羅』の如き存在である」ばかりではない 「阿修羅。インドの民間信仰上の魔族。外には礼義智信を掲げるに見えるが、内には猜疑心が強く、日常争いを好み、たがいに事実を曲げ、またいつわって他人の悪口を言いあう。怒りの生命の象徴。争い…
故・新藤兼人監督の最高傑作と、私が勝手に評価する「裸の島」(1960年製作)は、忘れられない映画である。 映画の舞台は、瀬戸内海に浮かぶ、僅か周囲四百メールの小島。 この狭い限られた土地はボタ山のように、天に向って遠慮げに突き出していて、し…
1 アニミズム的死生観という幻想 「なげーこさ、ここさいっとつくづく思うべの。す(死)は門だなって。す(死)ぬってことは終わりってことでなくて、そこを潜(くぐ)り抜けて、次へ向かう、まさに門です。私は門番として、ここで沢山の人を見てきた。行…
1 「名の知れたサーファー」という「栄誉称号」を、「殺人マシーン」という一兵士に変換し得ない者の防衛戦略 フランシス・F・コッポラ監督 の「地獄の黙示録」(1979年製作)の中で、私の心の中に最も鮮烈な印象を与えた人物は、マーロン・ブランド演…
1 心理描写に優れたウィリアム・ワイラー監督の傑作群の一つの極点 本作は、紛れもなく、一級の名画である。 常に高い水準の作品を世に出してきたウィリアム・ワイラー監督の傑作群の中で、「ローマの休日」(1953年製作)や「ベン・ハー」(1959年…
1 両親の死という悲痛のルーツに辿り着くするまでの物語 映画「禁じられた遊び」から、「対象喪失児の『悲哀の儀式』の大切さ」の重要性について考えてみたい。 テーマの具体的副題は、「ポーレットは、なぜ叫んだのか」。 ―― 以下、物語の梗概を簡単にフォ…
1 この世に厳然としてある、どうしても、なるようにしかならない人生の危機 普通の人々の日常性は、概して退屈である。 そのときは極端に緊張し、膨大なストレスを溜め、逃げ出したくなった人生の日々のように見えたとしても、後になってそれを思い起こすと…
例えば、知人の子弟が東大に合格したとき、その子弟を賞賛する者の儀礼的な言葉のうちには、既に大学のレベルを序列化する優劣意識が含まれている。 或いは、自分の瞳の美しさを褒められても、少し鼻が上向きであることをからかわれて怒ったとすれば、その者…
1 「奈落の底」に閉じ込められた男の極限的様態を描き切った傑作 登場人物の心理をフォローするようなBGMの多用に些か滅入るが、しかし、この映画は悪くない。 相当程度において上出来である。 この映画が高い評価に値するのは、女の純愛の強さが、「死…
1 恐怖ルールを持つ男 個人が帰属する当該社会に遍く支持されている規範(ルール)、それを「道徳」と呼ぶ。 この道徳的質の高さを「善」と定義しても間違いないだろう。 しかしそれらは、どこまでも「やって欲しいこと」と「やって欲しくないこと」を内的…
1 今、まさに、防ぎようがない亀裂が入った「プライドライン」の防衛的武装の城砦 特定のフィールドで功なり名遂げた者が、そのフィールドで手に入れた肯定的自己像を放棄することが困難であるのは、その者が拠って立っていたフィールドの総体を否定するこ…
1 完璧な映画の、完璧な構成の、完璧な構築力 完璧な映画の、完璧な構成の、完璧な構築力。 長尺なのに飽きさせないのは、殆ど無駄な描写が削り取られているからだ。 完璧なプロなのに、最も肝心なところで認知ミスを犯してしまう。 完璧なプロもまた、人間…
1 「差別の前線」での「たった一人の闘争」を必至にする、「鉄の女」の誕生秘話 多様な経験の累加によって、自らの感情・行動傾向が継続力を持つ、構造化された安定的な認知に関わる確信幻想 ―― これを、私は「信念」と呼ぶ。 一切が幻想であると考える私に…
序 「誰かが行かねば、道はできない」 ―― 本作の梗概 「誰かが行かねば、道はできない。日本地図完成のために命を賭けた男たちの記録」 この見事なキャッチコピーで銘打った本作の梗概を、公式サイトから引用してみる。 「日露戦争後の明治39年、陸軍は国…
1 全身全霊を賭して動く人間の裸形の様態を描き切った大傑作 本作は、「戦場のリアリズム」が開いた極限状況の中で、不安に怯え、恐怖に慄きながらも、それでも、生還せんと全身全霊を賭して動いていく以外にない人間の裸形の様態を描き切った大傑作である…
序 実録映画に対する評価の難しさ この映画ほど、実録映画に対する評価の難しさについて痛感した作品はない。私は基本的にどのような映画作品も、そこに如何なる原作を下敷きにした作品であったにしても、その原作とは無縁に創作された表現作品として、それ…
「鉄道員」は、感動を意識させた原作と、同じく感動を意識させた映像が結合し、私には些か厭味な映画になった。 映画はとても良くできている。 完成度もそれなりに高いので、日本アカデミー賞を総舐めにした理由も納得できなくはない。 しかし、それらが却っ…
人はなぜ、不安に駆られるのか。 失いたくないものを持ち、それを失ったらどうしようというイメージを作りだすことと、本当にそれを失ってしまうのではないかという思いが、一つの自我の内に共存してしまうからである。 この、失いたくないものを失うのでは…
恋愛を無邪気に語る者は、酔うことができる者である。 酔うことができる者は、酔わすことができると信じる者である。 人を酔わすと信じるから、語る者は語ることを捨てない者になる。 語ることを捨てないことによって、語り続けられることを信じる者になるの…
未踏の、豊饒な満足感に充ちた快楽との出会いは、それを知らなかったら、それなりに相対的安定の秩序を保持したであろう日常性に、不必要な裂け目を作るばかりか、それがまるで、魅力の乏しいフラットな時間に過ぎないことを、わざわざ自我に認知させ、自ら…
1 東京の都市変革をリアルにイメージさせる「破壊」の風景から開かれる映画のインパクト 1964年。 経済協力開発機構 (OECD) への加盟が具現される背景の中で、世銀の融資を受けて東海道新幹線を開通させた年の、異次元的な都市建設の怒涛のラッシ…
1 「見える残酷」と、「見えない残酷」 「見える残酷」と、「見えない残酷」というものがある。私の造語である。 それは危害を加えた者と、危害を加えられた者との距離の概念である。その距離は物理的な落差であると同時に、意識の落差でもある。 その言葉…
1 アーリー・スモール・サクセスを遥かに超えた、ビギナーズラックという最適消費点 人並みの希望を持ち、人並みの悲哀を味わって、日々に呼吸を繋ぐごく普通の人々が、その日常性の枠内で、心地良い刺激をごく普通に求めるとき、まさにそのニーズを保証す…
1 「世間智」と「世間無智」のコンフリクトの不毛性 昭和一桁の5年前、大阪市天王寺の上本町(船場から移転)で、古い暖簾を誇る蒔岡家に起こった忌まわしき事件。 それは、末娘で四女の妙子が、船場の貴金属商・奥畑の息子(啓ぼん)と引き起こした駆落ち…