2023-12-01から1ヶ月間の記事一覧

評議('06)    人が人を裁くことの重さ

1 「私たち9人が知恵を出し合い、真剣に議論を行えば、きっとみんなが納得できる結論に至るはずです」 平成21年(2009年) 裁判員の参加する刑事裁判が始まった。 被告人・中原敦志(以下、中原)の婚約者・川辺真由美(以下、川辺)の証言。 「私は…

エゴイスト('23)   そこだけは輝きを放つ〈愛〉のある風景

1 「二人でやれるところまで、やってみよう。お母さんのために」 女性雑誌の編集者である斉藤浩輔(以下、浩輔)は、仕事の後のゲイ仲間との夕餉(ゆうげ)を愉悦している。 その浩輔の帰郷の際のモノローグ。 「憎むほど嫌いだった故郷の田舎から逃げるよ…

帰らざる日々('78)   〈あの夏〉が蘇り、不透明な自己の〈現在性〉を穿ち、鮮度を加えて立ち上げていく

1 「何であんなことしたって聞きたいんだろうけど、人の誠意をあまり疑うなよな。律儀過ぎるんだよ、お前」 キャバレーのボーイをしている作家志望の野崎辰雄(以下、辰雄)は、父・文雄の急死の電報を受け、6年ぶりに信州・飯田に帰郷することになった。 …

アマンダと僕('18)  それでも、人間は動く

1 「昨日の夜、大変なことが起きたんだ。男たちが銃を持って…ピクニックや散歩に来てた人たちを撃った。大勢が撃たれた…」 パリで短期滞在のアパートの雑用をしているダヴィッドは、案内するインド人観光客の到着が遅れたことで、姉・サンドリーヌの7歳の…

ロストケア('23)   トラウマを克服する歪んだ航跡

1 「この時、気づきました。この社会には穴が開いているって。一度でも落ちてしまったら、この穴から簡単には抜け出せない」 「人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい マタイによる福音書7章12節」 「黄金律」とも言われるイ…