2015-10-01から1ヶ月間の記事一覧

少女は自転車にのって(‘12) ハイファ・アル=マンスール <「通過儀礼」を突破するテーマを引き受け、闘い切った少女の颯爽感>

1 「自転車を買います」と言い切った少女の、何ものにも妥協しない強(したた)かさ いつものように、コーランを暗唱することに不熱心なばかりに教師に叱られ、一人だけ屋外に出されても、一向に気にする様子を見せない少女。 少女の名はワジダ。 サウジア…

柘榴坂の仇討(‘14) 若松節朗 <<人生に決着を付けに行った「全身武士」の男に広がる、反転的風景の鮮やかさ>

1 主君への絶対忠義を果たし得ていない男に被さる苛酷な負荷 明治5年、秋。 悪夢で目が覚めた男は、13年前(安政7年)の婚礼のことを想起する。 彦根から嫁いで来た妻・セツと結ばれた日のことである。 「末永く世話になる。よろしく頼むぞ」 美貌のセ…

光にふれる(‘14) チャン・ロンジー <視覚障害者の青春の断片を切り取った一級の名画>

1 「僕は自分で試してみたいんだ。何でも人に頼らないで、自分の力を確かめたいと思う」 身震いするほど感動した台湾映画。 障害者を出汁に使う狡猾な作品と切れ、構成に全く破綻がないヒューマンドラマの傑作。 視覚障害者のピアニストの主人公を本人が演…

紙の月(‘14) 吉田大八 <甘美なる「ギブ・アンド・ギブ」のトラップに嵌った女の焼失点>

1 貢ぐ女と享受する若者 言葉を失うほど感動した。 邦画界に、これだけの映像を構築する映画作家がいることを誇らしく思う。 思い切り主観的に書けば、私の大好きな「パーマネント野ばら」(2010年製作)、「桐島、部活やめるってよ」(2012年製作…