2024-07-01から1ヶ月間の記事一覧

ウェンディ&ルーシー('08)  小さな町の、小さな旅の、小さな罪の、大きな別れ

形容し難い妙味を感じさせるインディーズ・ムービーの傑作。 1 「いい子。本当にお利口ね…すてきな家ね…優しそうな人だった。広い庭もあって…」 ウェンディは愛犬のルーシーを連れ、職探しにアラスカへ車で向かう途上、オレゴンで車中泊をした。 しかし、そ…

the son/息子('23)   無知と恥は痛みを引き起こす

気迫の映像に絶句する。 前作の「ファーザー」同様、秀逸な構成力と抜きん出た映像構築力。 人間の心の病へのケアの難しさを、ここまで精緻に描き切った傑作に言葉を紡げない。 観る者の心を抉(えぐ)ってくるのだ。 ヒュー・ジャックマン、完璧な表現力だ…

だれのものでもないチェレ('76)   母の迎えを待つナラティブが壊れゆく

1 「母さん、キリストに伝えて。私にも贈り物を届けてって。誰も私にプレゼントをくれないの」 1930年、ホルティ独裁政権下のハンガリー。 富農に引き取られた孤児のチェレは服も与えられず、学校へ通わせてもらうことなく、牛追いや荷役をさせられてい…

怪物('23)  抑圧と飛翔

1 「ちゃんとしろよ!あのさ、皆さん、さっきから目が死んでるんですけど。私が話してるのは人間?」 夜、自宅のベランダから、雑居ビルの火事を見ている麦野早織(むぎのさおり 以下、早織)と息子の湊(みなと)。 「豚の脳を移植した人間は、人間?豚?…