2020-10-01から1ヶ月間の記事一覧

海を駆ける('18)   深田晃司

<「さよなら。またどこかで」という理不尽な自然の挑発に、人は何ができるか> 1 「海から出て来た異体」と、若者たちとの緩やかな交流 2004年、インドネシア・スマトラ島のバンダ・アチェに大津波(注1)が襲い、そこに一人の日本人が浜辺に打ち上げ…

DVの犯罪性を構造的に提示した映画「ジュリアン」 ―― その破壊力の凄惨さ グザヴィエ・ルグラン

1 寄る辺なさ生活拠点を失った男と、男によって奪われた母子の〈生〉の現在性 「両親は離婚して、ママと姉と住んでいます。もうすぐ、姉さんの誕生パーティーです。おじいちゃんの家に住んでます。勉強は一人でちゃんとやっています。友達がいっぱいいて楽…

ロスト・イン・トランスレーション(’03)   ソフィア・コッポラ

<「時間」と「空間」が限定された、一回的に自己完結する心理的共存の切なさ> 1 東京滞在に馴致できない中年男と、年若き女の出会いと別れの物語 パークハイアット東京ホテルに、二人のアメリカ人が宿泊している。 一人は、ウィスキーのCM撮影のために…

「別離のトラウマ」の破壊力 映画「寝ても覚めても」('18) ―― その「適応・防衛戦略」の脆弱性  濱口竜介

1 震災が、うまく折り合えない二人の関係を溶かし、親愛感を強化していく 「朝ちゃん、あれはあかん。一番あかんタイプの奴や。泣かされてるのが目に見えてる」 「バクっていうの、麦って書くねん。妹さんがマイって言うねん。米って書いて、マイ。お父さん…

「バカンス」を軟着させた青春の息づかい ―― 映画「ほとりの朔子」(’13)の素晴らしさ 深田晃司

1 囲繞する大人社会のリアリティの「観察者」 8月26日 日曜日。 浪人中の朔子(さくこ)が、叔母の海希江(みきえ)と共に、外国旅行に出かける海希江の姉・水帆(みずほ)の家を訪れる。 水帆が留守の間、二人が夏の終わりを過ごすのである。 旅支度を…