2016-11-01から1ヶ月間の記事一覧

失われた週末(’45) ビリー・ワイルダー <アルコール依存症は「死に至る病」である>

1 「そばにあると思うだけで心強い。一度、回転木馬に乗ったら簡単に降りられない」 ―― アルコール依存症者の悶絶 「金曜から月曜まで、のんびり田舎暮らしだ」 「長い週末だ」 「お前の体のためだ」 10日も禁酒している33歳の売れない小説家・ドン・バ…

冬冬の夏休み(’84) ホウ・シャオシェン <児童期後期から思春期への通過儀礼を鮮やかに描いた一級の名画>

1 「毎日、色んなことがあって、思い出せません」 ―― 少年の夏が弾けていく 「残されたのは数々の思い出だけです。離れがたい思いのまま、私たちを6年間育んでくれた学校を後にします。深い悲しみに、涙がこぼれます。けれど、私たちは学業を終えたのです」…

悪魔のいけにえ(’74) トビー・フーパー <ホラー映画の王道から逸脱した不条理ホラーの独立峰>

1 チェーンソーが空を切り、一人の殺人鬼だけが置き去りにされていく 「これは 5人の若者の身に起きた悲劇の物語だ。サリーと、兄・フランクリン、友人たちの若さが、一層、哀れさを感じさせる。だが、たとえ彼らが長生きしたとしても、かくもおぞましき恐…

珈琲時光(’03) ホウ・シャオシェン <「日常性」は、ほんの少し更新されていくことで、自在に変形を遂げていく>

私の大好きな「珈琲時光」。 肩ひじ張らず、ゆったりとした時間が流れる映画が切り取った、「日常性」の静のリズムの心地良さ。 上京して来た父のために、アパートの向かいの大家さんの家に、一青窈が酒とグラスを借りに行くシーンは、ヒロインのおおらかな…

イロイロ ぬくもりの記憶 (’13) アンソニー・チェン <児童期反抗と、その思いを吸収する異国のメイドの物語 ―― その濃密さ>

1 「アジア通貨危機」の影響下にある、シンガポールを舞台にしたヒューマンドラマ 「アジア通貨危機」(1997年、 タイの通貨・バーツの暴落を契機に、アジア各国で起こった金融危機)の影響下にあるシンガポールを舞台にしたこのヒューマンドラマは、わ…