2012-11-01から1ヶ月間の記事一覧

ツリー・オブ・ライフ('11) テレンス・マリック  <生命の無限の連鎖という手品を駆使した汎神論的な世界観で綴る、「全身アート」の映像宇宙>

1 「シン・レッド・ライン」における「唯一神の沈黙」のイメージ 私が主観的にイメージするテレンス・マリック監督の世界観に必ずしも共鳴するものではないが、しかし、観る者と作り手との世界観の落差に必要以上に拘泥する狭隘な思考を拒否するが故に、私…

八日目の蝉('11)  成島出  <「八日目」の黎明を抉じ開けんとする者、汝の名は秋山恵理菜なり>

1 個の生物学的ルーツと心理学的ルーツが乖離することで空洞化した、屈折的自我の再構築の物語 本作は、個の生物学的ルーツと心理学的ルーツが乖離することで空洞化した自我を、日常的な次元の胎内の辺りにまで、深々と引き摺っているような一人の若い女性…

まほろ駅前多田便利軒(‘11) 大森立嗣  <実存的欠損感覚を補填する心的旅程の艱難さ>

1 実存的欠損感覚を持つ二人の男 実存的欠損感覚を持つ二人の男がいる。 一方の男は、不確実性の高い、見えにくい未来に向かうことで欠損の補填をしようと、辛うじて身過ぎ世過ぎを繋いでいる。 しかし、男の心奥に潜むトラウマが、いつもどこかで、その補…

アウトレイジ('10) 北野武 <「非日常」の極点である〈死〉に最近接する「狂気」と乖離した何か>

1 「物理的・心理的境界」の担保によるリアリティの敷居の突き抜け 〈死〉と隣接する極道の情感体系で生きる男のアンニュイ感が、海辺の廃家を基地にした「遊び」の世界のうちに浄化されることで得た、ギリギリの生命の残り火の炸裂のうちに表現された「ソ…

クィーン(‘06) スティーヴン・フリアーズ<媚を売る懦弱な自己像にまで堕ちていくことを拒んだ孤高の君主の物語>

1 10人目の首相の承認を遂行した連邦王国の女王 当時、発足まもない労働党政権の若き宰相の献身的なサポートに支えられなければ、物語の構成力の由々しき防波堤を構築し得ないほど、英国王室の権威の復権の物語を製作しなければならなかったなどという下…

家族の庭(‘10) マイク・リー <今まさに、奈落の底に突き落とされた「孤独」の恐怖の崩壊感覚>

1 人間洞察威力の鋭利なマイク・リー監督の比類ない作家精神の独壇場の世界 人間洞察力の鋭利なマイク・リー監督の厳しいリアリズムが、一つの極点にまで達したことを検証する一級の名画。 主に下層階級の家族をテーマにして、そこで呼吸を繋ぐ人々の喜怒哀…

北条民雄、東條耿一、そして川端康成 ―― 深海で交叉するそれぞれの〈生〉

1 「おれは恢復する、おれは恢復する。断じて恢復する」 「人生論的映画評論」の「小島の春」の批評の中でも書いたが、北條民雄(写真)の「いのちの初夜」の中の一文をここでも抜粋したい。(なお本稿では、多くの引用文があるため、ハンセン病患者を「癩…

騙し予言のテクニック

確信の形成は、特定的なイメージが内側に束ねられることで可能となる。 それが他者の中のイメージに架橋できれば、確信はいよいよ動かないものになっていく。 他者を確信に導く仕掛けも、これと全く同じものであると言っていい。 その一つに、「騙し予言のテ…

イデオロギーは人間をダメにする

1 イデオロギーは人間を踏み台にする イム・グォンテクという、シネフィルにはよく知られた映画監督がいる(トップ画像)。 「韓国映画の良心」とも評価し得るような、一代の巨匠である。 「1936年5月2日、全羅南道長城生まれ。第二次世界大戦直後の…