2023-08-01から1ヶ月間の記事一覧

どん底('57)  黒澤リアリズムの到達点

1 「お前さんが死んであの世へ行くと、阿弥陀様にお目にかかる。阿弥陀様は、お前さんをお慈悲深い目で見守って…だから、くよくよせずにお迎え待つんだよ」 崖の下のオンボロの棟割長屋(むねわりながや)には、どん底の人生を送る人間たちが住んでいる。 …

「戦うのは自分たちの土地を守るためです。敵への攻撃が目的になってはいけません。それが人の命に対する責任です」

NHK「クローズアップ現代」で放送された「戦争が“言葉”を変えていく ある詩人が見たウクライナ」を観て深い感慨を覚えたので、その一部を紹介したい。 以下、ウクライナ西部の都市リビウの人形劇場の演出家として働くウリャーナ・モロズさんが、侵攻後、…

PLAN 75 ('22)   復元し、明日に向かって西陽を遠望する

1 「いつも、先生とおしゃべりできるのが嬉しかった。おばあちゃんの長話に付き合ってくれて。本当にありがとうございました」 音楽番組に続いて、ラジオからニュースが流れる。 「75歳以上の高齢者に、死を選ぶ権利を認め、支援する制度、通称“プラン7…

蜘蛛巣城('57)  完璧な俳優陣による完璧な構成と完璧な構築力

1 「殿の行く道はただ二つ。じっとこのまま大殿に斬られのを待つか、大殿を殺して蜘蛛巣城の主になるか」 蜘蛛巣城の城主・都築国春(つずきくにはる/以下、国春)の臣下、北の館(きたのたち)の藤巻が、隣国の乾(いぬい)と通じて謀反を起こし、当初、…

生きものの記録('55)   「神武景気」の只中で堂々と世に放たれたエンタメ排除の反核映画

1 「死ぬのはやむを得ん。だが、殺されるのは嫌だ!」 家庭裁判所の調停委員をしている歯科医の原田が家裁に着くと、家族によって裁判所に申し立てられた中島喜一(以下、喜一)が、荒木判事に向かって怒りをぶつけていた。 「この連中が一人前の人間に見え…

天城越え('83)   「無常と祈り」の映像風景が揺蕩っている

1 「あたしはハナ」「ハナ?」「そう。咲いた咲いたのハナ。簡単な名前だわ」 現代。 静岡県警察本部刑事部嘱託の田島松之丞(以下、田島)が、刑事捜査資料の印刷の依頼で、県内にある港印刷所を訪ね、事務員に名詞と原本を置いて行った。 病院でレントゲ…